10月の番組改定期を前にして民放各局は、連夜長時間のスペシャル番組を編成。
視聴率だけをねらった低俗なバラエティー番組が並ぶ中で、24日(土)で言えば、「世界一受けたい授業・秋の特別講習」(日テレ)と倉本聰ドラマスペシャル「祇園囃子」が実力を発揮していた。
その同じ時間帯で私はNHKスペシャルのドキュメンタリー「ひとり団地の一室で」を身につまされながら見た。地味ながら重い衝撃を持つ番組だった。
◆孤独死予備軍
高度成長期に憧れの団地としてもてはやされた千葉県松戸市の大団地。今や建物も老朽化し、住人も高齢化している。この団地には今、月3万と言う安い家賃に引かれて、リストラ、失業、離婚、体の障害などで一人暮らしを余儀なくされた男性たちが吹き寄せられるように移り住んできている。
近所との付き合いも無く、収入も無く僅かな貯金を取り崩しながら、生きる張り合いもなくして、ひっそりと暮らす男性たち。そしてまだ40代、50代、60代の若さで団地の一室で誰にも看取られること無く死んでいく。この3年間に21人もの男性が孤独死した。
番組は団地での孤独死を防ぐために活動を始めたボランティア組織「まつど孤独死防止センター」の老人ボランティアたちと独居男性たちとの交流を追っている。ボランティアたちは、当初からの住人が多く今や70歳代。その老人たちが自分たちより20歳も若い、孤独死予備軍の男性たちの相談に乗っている。
センターの呼びかけに応じた男性の一人は「もう4ヶ月も人と口をきいていない」という。
◆テレビの目線
テレビは華やかな成功者や恵まれた人々か、さもなければ事件を起こした犯罪者だけを取り上げるのではない。そのハザマで様々な悩みを抱えながら生きている弱い人々にも目を向けるべきだし、ドキュメンタリーの使命の一つはそこにある。
ただ問題は、普段は浮き足立った現実離れの世界ばかりを追っているテレビ界(特に民放)が、たまに弱者を取り上げたときに、違和感無く弱者と同じ立場に立てるかどうか、行政や社会的強者の目になっていないか、だ。
これは単にディレクターの問題ではなく、テレビ局の普段からの姿勢にも関係してくる。
NHKの番組はこの点でしっかりしていたし、これをNHKスペシャルにもってきたテレビ局の姿勢も評価したい。
◆社会問題の象徴としての現場に目をつける
団地で一人暮らしをする彼らの前身は会社の経営者だったり、サラリーマンだったり、運転手や技術者だったりと、ごく普通の人々だ。我々だっていつそうなるか分からない紙一重の所に生きている。
この番組を見ると日本社会の安全ネットは、いろんな点でまだ極めて不十分だという事がわかる。問題がこの団地の現場に象徴されているのだ。
この番組は弱者と同じ目線を持てたことと同時に、今の日本の社会問題が集約された現場としてあの団地を見つけてきた「目の付け所」も評価したい。
このテーマは持続的に深めていけば、さらなる広がりが見えてくるテーマだと思う。
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