般若心経  現代語訳                                         05.6.22


 
 仏教の教えのエッセンスでもある268文字の般若心経。No1に書いたように、もう40年くらい
  朝晩となえてきました。
  しかしその内容となると、およそのことは知っていても、充分には理解しないままでした。
  そこで今回、思い切って現代語訳に挑戦してみました。

  いろんな本を参考にしましたが、勿論、間違いも多いだろうと思います。
  しかしやってみて、般若心経の解釈は、百人百様、様々あっていいのではないかと思うように
  なりました。
  これまでも実に多くの人々が現代語訳を試みています。こんなに広く流布している般若心経を、
  さらに多くの人が自分の言葉で語るようになったら素晴らしいと思います。

  なお、私の訳は全体に、弘法大師の密教的解釈により近くなっていると思います。
  空の考え方(空観)については、「教えの本質」もあわせて読んでいただけるとありがたいです。

    「かたよらない心、こだわらない心、とらわれない心、ひろく ひろく
                 もっとひろく これが般若心経 空の心なり」 (高田好胤)




 仏説摩訶般若波羅蜜多心経
 これから、仏さまが、大きくて深い仏の覚りの智慧と、その覚りへの道筋を示した大事な
 お経をお説きになる。

 観自在菩薩行深般若波羅蜜多時
 照見五蘊皆空
 度一切苦厄

 覚りを求めて修行する行者の観自在菩薩が、深い真実の覚りである般若波羅蜜多を行じた
 とき、
 私たちがこの世界を見る時の、色、受、想、行、識という五つの感受作用と心の働きが、
 固定的永続的なものではなく、
 他の様々な因縁との相互関係によって常に移り変わっている、実体のない「空」であるという
 真実を、明らかに見た。
 そして、逃れがたい人生の苦しみの一切を救ったのである。

 *私たちの感受作用と心の働き(五蘊)が「空」なのだから、私たちが感受するこの世界
  そのものも実体のない「空」である。
  しかし、同時に観自在菩薩は、その「空」が何も無い虚無ではなく、宇宙の始まりから
  この世界を作ってきた、絶対不変の宇宙の真理(それを仏のいのち、と言い換えよう)
  によって作られていることを、明瞭に見たのである。
  いうなれば、私たち自身を含むこの世界のすべては「空」であると同時に、仏のいのち
  で満たされている「空」なのである。

 舎利子
 色不異空 空不異色

 舎利子よ。
 目に見えるこの現実世界(色)は、そのように実体のないもの(空)であると同時に、
 目には見えない仏のいのちが働いている世界でもあり、従って、この現実世界は仏の
 いのちと離れて存在するものではないのである。
 同様に、目に見えない仏のいのち(空)もまた、この現実世界(色)と離れて存在する
 ものではない。

 色即是空 空即是色
 この現実世界(色)がすなわち仏のいのち(空)であり、仏のいのち(空)がすなわち
 この現実世界(色)である。仏のいのちとこの世は一体であると知るべきである。

 受想行識
 亦復如是
 舎利子
 是諸法空相

 私たちが、感じ、想像し、意図し、認識する作用もまた同じように「空」である。
 舎利子よ。
 この世のすべては、このように実体がない「空」であると同時に、仏のいのちに満たされた「空」
 でもあるというのが、真実の姿(実相)だと知るべきである。

 *自分が認識している自分という存在が「空」であると知る一方で、自分が何もない空虚
  ではなく、絶対不変の宇宙の真理、仏のいのちに満たされていることを覚っていくので
  ある。
  そして、自分の中にある仏のいのちを見つめながら、仏のいのちと一体である自分の
  いのちを生かして、他のどこでもないこの世の中で、仏の覚りの世界(浄土)を見つけ
  ていく(「煩悩即菩提、娑婆即寂光」)のである。

 不生不滅 不垢不浄 不増不滅
 この現実世界における「空」の本質である仏のいのちは、絶対不変の、時を超越した存在
 なので、生まれたり消滅したりするものではなく、
 また、この世を生み出した大本の存在なので、汚れたり、美しくなったりもせず、増減などの
 変化もないという本質をもっている。

 是故空中
 無色無受想行識

 従って、この「空」のなかでは、現実世界(色)も無である。
 すなわち、現実世界の悪や迷い(色)が「無」によって断ち切られた時、そこに現れる清浄なる
 仏の世界が真実の姿なのである。
 受、想、行、識も無である。すなわち、私たちの感覚も心も「無」になり、浄化された
 仏の心としてよみがえるのである。

 無眼耳鼻舌身意
 無色声香味触法

 私たちの人間としての機能、眼、耳、鼻、舌、身、意、の六根も「無」である。「無」に
 よって六根は仏のいのちと一体となり、清められて仏のいのちに支えられた働きとなる。
 さらに、六根によって人間に感受される、色、声、香、味、触、法の感覚世界(六境)も
 「無」である。
 「無」によって私たちの感覚世界は、仏のいのちに清められ、清浄な世界、光に満ちた世界として
 私たちによみがえってくる。
 「無」だからこそ、すべてのものが仏のいのちという真実の価値を持ってくるのである。

 無眼界乃至 無意識界
 私たちが肉眼で見る世界から、意識で見る世界に至るまでもが「無」である。
 「無」であると見ることによって、すべてが「空」の世界として生き返り、充実した仏の
 世界であると覚るのである。

 無無明 亦無無明尽(じん)
 乃至無老死 亦無老死尽(じん)

 お釈迦様の説かれた、人の一生の迷いや苦を作り出す十二の因縁、「無明、行、識、
 名色、六入、触、受、愛、取、有、生、老死」のなかの、煩悩の始まりである無明も
 「無」であり、同時にその無明が終わることも「無」である。
 煩悩の最終局面である老死も、また老死がなくなることも、「無」である。

 *すなわち、仏のいのちの働く「空」の中では、煩悩も「無」になり、浄化されて菩提心
  (覚りを求める心)に転じる。もろもろの煩悩が「無」であると知ることによって、
  迷いや苦を作り出す十二の因縁、連鎖が仏道に転換されてよみがえり、覚りへの道
  (転迷開悟の道)をたどるのである。

 無苦集滅道
 苦、集、滅、道の「四諦」。
 これは、お釈迦様が煩悩と解脱の道を説かれた苦諦、集諦、滅諦、道諦の四諦の教えで
 あるが、これも「無」である。
 「無」に徹することによって、その四諦の教えが真実のものとなって生きてくるのである。
 すなわち苦の因果を知り、その滅却を決心し、仏道修行の八つの正しい道(八正道)を
 踏むことによって覚りを得ることができるのである。

 無智亦無得
 以無所得故

 「無」に徹した「無所得」の覚りによるがゆえに、智も「無」であり、また、持っている
 ものすべても「無」である。
 同時に、今まで説いてきたように、「無」に徹することによって、智慧や持っているもの
 すべてが、仏のいのちと一体になり、仏のいのちに守られ、生き生きとその価値を発揮
 するのである。

 菩提薩た 依般若波羅蜜多故
 心無けげ 無けげ故
 無有恐怖
 遠離一切顚倒夢想
 究きょう涅槃

 覚りを求める観自在菩薩は、般若波羅蜜多(般若空の覚り)を拠りどころとしている
 ので、こころに何のこだわりも障害もない。
 こころに何のこだわりもないから、五つの恐怖(生活への恐怖、他人が自分の悪口を
 言ってるという恐怖、死に対する恐怖、地獄に落ちないかという恐怖、いつも大勢の人が
 自分を責めているのではないかという恐怖)といった恐怖心もない。
 一切の間違った考えやつまらない妄想を離れて真実を見ることができる。
 そして、尽きることのない最高の菩薩の境地、すなわち、いつまでもこの世に止まって
 慈悲を施すという覚りの境地にいるのである。

 三世諸佛
 依般若波羅蜜多故
 得阿のく 多羅三みゃく 三菩提

 覚りを得た過去、現在、未来の三世の諸仏、諸菩薩は、般若波羅蜜多(般若空の覚り)を
 拠りどころとしているので、「あのくたらさんみゃくさんぼだい」(無上、平等、完全な
 覚りの境地)を得ておられる。

 故知般若波羅蜜多
 以上のことから、「般若波羅蜜多」の覚りは次のような真言によって表される。

 是大神呪 是大明呪
 是無上呪 是無等等呪

 「これ大神呪なり」(人智を超えた呪=マントラ=真言である)ギャテイ
 「これ大明呪なり」(仏の光明の真言である)ギャテイ
 「これ無上呪なり」(この上ない真理の真言である)ハラギャテイ
 「これ無等等呪なり」(何ものにも比較することの出来ない最上の、しかも多くのもの
              に広く平等に利益を施す真言である)ハラソギャテイ

 能除一切苦
 真実不虚

 この真言を唱えればすべての苦しみ、災難を除く。
 この真言の功徳は真実であって、空しいものではなく、内容豊かな仏の世界を
 表している。

 故説般若波羅蜜多呪
 即説呪曰

 このようなわけで、般若波羅蜜多(般若の覚り)を表す真言を説くのである。
 次に般若の真言を説いていわく

 ギャテイ   (声聞の第一の覚りの境地)   
 ギャテイ   (縁覚の第二の覚りの境地) 
 ハラギャテイ (現世救済の完全な菩薩の境地)
 ハラソギャテイ(仏の国の曼荼羅世界に到達する)
 ボチソワカ  (ここに至って般若の覚りは成就する)

 般若心経
 般若波羅蜜多心経を説き終わる。




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