番組企画の2回目は「企画に意味を与える」というテーマなのだが、これが結構難しい。私が関わった番組の具体的な成立過程を例に書くといろいろ差しさわりがあるので、他の適切な例(番組)が見つかるかどうか。しかし、言いたいことは単純である。
◆時代の意味を取り込む
結論から言えば、どんなテレビ番組といえども時代の雰囲気の中で見られるのだから、いっそ番組の企画段階から時代を意識し、その意味するところを取り込んでみたらどうだろうということである。タイトルの「企画に意味を与える」は「企画に“時代の意味“を与える」ということなのである。
と言っても、第一にその番組にふさわしい「時代の意味」が何なのかを読み解かなければならないし、第二に、それをどういう形で企画に取り込んでいくのかも考えなければならない。以下、(できるだけ)具体的に考えてみたい。
◆「世界一受けたい授業」(日テレ)と「トリビアの泉」(フジ)
この2つの番組は、同じ「知識や雑学」というジャンルで括ろうと思えば括れるが、「時代の意味」と言う面から見るとその目指す方向は全く違っている。番組批評めくが、ちょっと分析してみる。
「トリビアの泉」は、明らかに今の「オタク文化」という時代性を意識していると思う。より些細な知識にこだわり、その知識が些細であればあるほど、しかも意外であればあるほど「へえー」となる。この番組を面白がるのは、日本の多様なオタク的知識を面白がる視聴者だろう。
題材を投稿するのも(オタク的)視聴者だし、番組もタモリ(司会者)の性格のままに、肩肘張ってメジャーを目指すでもなく、むしろわざとマイナーで結構という斜に構えた演出である。(しかし視聴率は高い)
この番組は、日本の「オタク文化」と運命を共にしており、これが活力を保つうちはいいが、多様性を失って息切れすれば番組も本当のマイナーになってしまうだろう。
一方「世界一受けたい授業」は、時代とともに歩く「売れ筋」をつかんだように思う。この番組の特徴は何より取り上げる教授陣にある。既に73人の教授陣が出演したと言うが、「さお竹屋はなぜ潰れないのか?」といった、新書版などで話題の著者たちをうまく引っ張り出している。
定時番組としては本格的に扱ってこなかった素材(学者たちの授業)に光を当てたのがアイデアだが、そういう出演者をうまく生かす器(スタジオ)を工夫したところもこの番組のミソである。教授陣が話題の人たちだから、番組も時代の関心事を扱うことが出来、時代と共に歩いていける。
但し、取り上げる教授陣に「本物感」があることが条件である。
◆企画に時代の意味を与えるには
単発のドラマやドキュメンタリーは別として、定時番組では、時代の風を読んで企画を発想するようなことは案外少ない。下手するとアイデア倒れになったりする。 しかし、うまくつぼにはまると「時代の申し子のような新しい番組」が生まれる可能性があるので、大事にしたい発想法だと思う。
では、どうすればいいのか。人間は発想の手掛かりを必ずどこかに求めるものだから、初めから皆がびっくりするような斬新な企画はなかなか出てこない。最初はどうしても元の手掛かりの影を残した、どこかで見たような企画にならざるを得ない。(*)
そんな時、「企画に時代の意味を与える」方法で一番やりやすいのは、いま発想された企画に後から意味を与えていくやり方だ。後知恵というか、その企画が潜在的に持っている時代の意味を見つけ出し、その意味が際立つように番組(企画)を改良していく方法である。
一見安易なようだが、単に番組の厚化粧で視聴率ねらいをするより余程効果的だ。こうした視点や志があるのとないのとではその後の番組の売れ筋が全く違ってくる。
「世界一受けたい授業」も最初はいわゆる有名教授だったが、だんだんと新書などの他メディアからも最近の話題を「発掘」するようになった。制作者が確信を持って時代の関心事を取り上げる番組に持って行けば、さらに個性のはっきりした番組になるだろう。
一世を風靡した「プロジェクトX」(NHK)。戦後の日本人の底力を有名人でなく、無名のチームメンバーを取り上げることで社会的共感を呼んだが、この背景には、バブルの崩壊で意気消沈していた日本人に誇りと勇気を与えると言う時代感覚があったと思う。
「日本人も捨てたものではない」、「プロジェクトこそ戦後日本人の力の源泉」というメッセージは番組の時代的意味として制作者が充分意識した点だろうと思う。
◆時代感覚を磨く
最初はある種の直感で発想された企画でも、それが潜在的に持っている時代性を見つけ出し意識して改良していけば、時代の共感を得て時代と共に歩んでいける番組になる。番組の寿命も長くなる。
問題は、その時代性を見つけ出す能力をどう磨いていくかである。時代の中で今求められているものは何か、何が時代の関心事なのか、企画者の時代感覚が問われてくる。
その時代感覚を磨くには当たり前のようだが、自分の時代に対するアンテナが錆び付かないように普段から努力する以外にない。 そして、その前に大事なことは、バラエティー番組も含めてすべてのテレビ番組は企画者が時代と向き合う中から生まれてくるものだということを、しっかり認識することだと思う。
*発想の手掛かりとしては例えば、@法律、利殖、雑学、美術などなど今の視聴者が関心を持ちそうなテーマを設定して考える、
A昔の番組や他局の同種番組を今風に「換骨奪胎」する、B視聴ターゲットの嗜好調査を基にして考える、
C雑誌やネットなど他メディアの当たり企画からアイデアを借りる、などなどがあるだろう。
*「テレビに時代の意味を与える」は同時に、「番組の寿命をどう延ばすか」にも関係してくるが、これは次回以降に廻したい。 |