8月3日に安倍再々改造内閣が発足した。安倍としては、何もなければ極右的イデオロギーを共有するお友達内閣を心地よく続けたかったのだろうが、それがこのところの支持率急落で破綻したために、自分とは思想信条的に距離のある「うるさ型」も含めて、オール自民党的な陣容を組まざるを得なかった。発足に当たっての記者会見で、安倍は冒頭、モリ・カケ問題、自衛隊の日報隠しの3点セットを上げながら、「改めて深く反省し、国民の皆様におわび申し上げたいと思います」と8秒間、神妙に頭を下げたが、本当に態度で示せるのか、どこまで本心なのかは分からない。
その“二重構造内閣”の性格については後述するとして、今回はこれまでのお友達内閣のイメージを払拭するために、初入閣組を少しに抑えて、かなり思い切って実力主義の人選をしたわけだが、それもこれも来年9月の総裁選挙で3選を果たすという強い意欲の現れだった。来年までの1年1ヶ月、閣外であれこれ動き出しそうな実力派を閣内に取り込み、課題を与える。それがうまくいけば安倍内閣の評価アップにつながるし、うまくいかなければその人物の評価が下がる。後継者としての力を削ぐことも出来る。閣内に取り込むことには、そういう思惑も絡んでいる。
もう一つはよく言われることだが、安倍を始めとして高村副総裁、菅官房長官、麻生財務相、二階幹事長らの政権中枢が留任したことである。このうち、二階を除く3人は安倍と政治信条を共にする同志であり、その意味で第三次安倍内閣の中核が、極右的体質を持ち続けていることに変わりはない。口では、「政権発足時の原点に返る、謙虚に丁寧に国民の付託に応える、最優先すべきは経済の再生、改憲はスケジュールありきではない」とひたすら低姿勢だが、これは目くらまし。安保法、共謀罪など一連の国家主義的法案を強行採決して来た体質がそう簡単に変わる筈がない。
◆稲田という極右政治家の勘違い
安倍政権中枢に共通の(極右的)体質の例は、稲田前防衛大臣に見ることが出来る。彼女は7月28日、自衛隊の日報隠し問題や都議選応援での不祥事などで、改造を待たずに辞任に追い込まれた。その日の深夜に北朝鮮からミサイルが発射された日である。その騒ぎも収まらない3日後、彼女は(防衛省を離れる)大げさな「離任式」を行って顰蹙を買った。そこで「皆さんは私の誇りです」などと演説したが、自身の反省は一切なし。彼女には何があろうと、自分の失敗を認めないという幼稚な「自己愛」があるに違いない。安倍はこういう稲田を仲間として庇い続けた。
「サンデーモーニング」の岸井成格(解説)によると、稲田の元には「よく国益を守ってくれた」という右派からの激励が届いているのだそうだ。日報を隠し通して、駆けつけ警護という安保法制の新しい任務を行っている自衛隊を(引き上げさせることなく)現地にとどめたという見方なのだそうだ。そう聞くと、満面の笑みを浮かべて花束を貰った彼女の「異常な勘違い」も見えてくる。稲田が国会で追求されたあと、彼女に駆け寄って手を握り、ファイトのポーズを示して励ます女性議員をカメラが捉えていたが、そうした勘違い政治家(多くは安倍チルドレン)が今の自民党にはびこっている。
彼らにとっては、極右的イデオロギーに忠実かどうかだけが判断基準であり、民主主義的な手続きや国民に対する説明責任などは視野に入らない。何を聞かれても「私にはそういう“認識”はなかったと言うことでございます」などと、能面のように繰り返す稲田の政治信条は、国民感覚から離れた宗教(もともとは生長の家)に近い。上から目線で戦後民主主義の価値観を見下す稲田のような勘違い政治家に「国民主権とは何か」を思い知らせるには、「落選運動」の対象者にでもして選挙で落とすしかないのだろうか。今回の騒動で地元(福井一区)も「恥ずかしい」と言っているようなので、福井県民の民度に期待したい。
◆極右体質隠しの二重構造
稲田のような極右体質は、彼女を重用してきた安倍中枢にも共通する。支持率50数パーセントを維持していた最近までは、首相自ら国会で相手をやじり、自民党の高支持率を上げて野党質問者を愚弄し、「モリ・カケ」問題でも印象操作だとか、怪文書だとか、全く問題ない、などと相手を馬鹿にした答弁を続けて来た。その傲慢さが今回の支持率急落につながった。仲間うちにだけに通じる価値観でイデオロギー的政治に邁進する、別の意見には価値観が違うなどとして全く耳を貸さない。そうした首相自身の狭量な極右的体質が「人柄が信用できない」という声になって国民に嫌われたのである。
そこで今回の改造では、(誰が知恵を付けたのか分からないが)意識的にこうした性格を隠すことに腐心した印象がある。安倍のお友達やイエスマンたちを退場させ、考え方で距離のある政治家(河野外相)や、総裁選への対抗馬と目される政治家(野田総務省)なども取り込み、「お友達内閣」などと言われたイメージを払拭した。その他に、林文科相、小野寺防衛相、茂木経済再生相、斉藤農水相などの実力派を入れて「結果で勝負する仕事師内閣」などと命名したが、これを私なりにざっくり言えば、極右的な官邸中枢と中道保守的な実力派閣僚との「二重構造内閣」と言うことになる。
◆安倍に代わり得る人材が見えて、波乱含みの二重構構造
安倍グループは、今回の内閣改造でイメージチェンジを図って支持率を上げ、何としても来年の総裁選で3選を果たす意気込みだが、この二重構造内閣改造は、幾つかの点でかなり波乱含みになるかも知れない。一つは、実力派閣僚の登用によって、安倍一強が“張り子の虎”に変わったことが明らかになったことである。これまでの自民党は、安倍一強のもとで(批判的な意見を言えば)人事で報復されるというので、自由にものが言えない雰囲気があった。しかし、閣僚に登用された実力派の面々が自分の意見を言い始めれば、安倍一強の権威は崩れ始める。
同時に、能力的には安倍などより高い実力派が存在感を発揮し始めると、自民党にも安倍に代わる人材はいるというメッセージになり、相対的に安倍の存在感が低下する。前のめりの改憲にブレーキをかける中道保守の閣僚が、それぞれに発言し始めれば、政権中枢の極右勢力の存在感は相対的に低下する。この二重構造の間の力学がどう変化していくか。こちらとしては、今回の改造を契機に極右勢力の力が減退して欲しいが、少なくとも今回の内閣改造は、安倍に代わり得る人材が自民党にもこれだけいるということを、国民に示した点で意味があったと思う。
◆より陰湿になって改憲をねらう極右勢力
ただし、安心は出来ない。安倍たち極右勢力にとって今回の改造は、悲願の改憲を行うために「経済優先」を掲げた発足当初の戦術に一時的に戻ったに過ぎないわけで、再び支持率が上がってくれば、その性格を露わにしてくるだろう。「一歩後退二歩前進」である。一方の中道保守的な顔を隠れ蓑にして、中核は極右的な陰謀をめぐらせていく。メディアへの露出やメディア幹部への締め付け、利益誘導や経済優先への看板の掛け替えなどで支持率を上げる一方で、小池新党など他党への働きかけを強め、より陰湿に改憲勢力の拡大へと動き始めるだろう。
その策の一つが早い段階(10月?)での衆院解散だという。小池新党や民進党の準備が出来ないうちに衆院を解散して、そこで何とか改憲勢力で2/3を占める。それが出来れば、来年11月に任期満了で予定される衆院選挙はなくなり、9月に予定される総裁3選へのハードルはぐっと下がる。早期に解散して勝てば、またお友達内閣に戻ることも可能だ。官邸の知恵者たちは、そんな戦術、あんな戦術を考えながら支持率回復のための人気取り政策に邁進するのではないだろうか。前にも書いたが、こうした改憲一点張りの政治がいかに不毛で、国政を停滞させるか。彼らは分かっているのだろうか。
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