12月22日、たまたま午後の「情報ライブ ミヤネ屋」(日テレ)と言う番組を見ていたら、安倍内閣の原発政策の話題が出ていた。その中でコメンテーターの政治評論家(田崎史郎、時事通信)が「来年は、原発再稼働ラッシュになる。川内原発に続いて、若狭の関西電力原発、九州の玄海原発と次々と再稼働する」と、まるで当然のように解説していた。宮根が「現地の同意を取りつけるという作業も残っていますが」と引きとって、その話題は終了。今や、原発再稼働はメディアの中でも既成事実のように語られ始めている。
その背景には、強大な力を持つ現体制(安倍政権)がはっきりと原発推進に踏み出した“時流”というものがあるのだろう。彼らは、「新たな規制基準に合格すれば、滅多に事故は起こらない」、「万一起こったとしても、対策は出来ているから大丈夫だ」と言った、新たな「安全神話(思考停止)」を広めている。“時流”に乗る人々が作り出す、こうした「安全神話」が如何に現実と違っているか――それを真摯に見続けて来た番組がある。これまでも(敬意を持って)取りあげて来たNスペ「メルトダウン」シリーズである。
◆Nスペ「メルトダウンFile5 知られざる大量放出」
今回(21/21放送)はその5回目、福島第一原発事故で放出された大量の放射能の謎に迫った「知られざる大量放出」だった。1号機から3号機までがメルトダウンした3月11日から15日までに、放出された放射能は全体の25%に過ぎなかった。残りの75%はその後の2週間にわたって放出されたものだが、その原因は実は意外なところにあったというのが番組の主要部分である。それは、主に次の3点になる。
@ 消防車による注水が燃料棒の損傷を促進
電源が停止して水が循環しないと、炉内の水が蒸発して水位が低下していく。そうすると、燃料棒が熱で溶けてメルトダウンし放射能が飛び出して来る。3号機では、それを防ぐために現場の判断で急きょ消防車を使った注水を始めた。しかし、注入された毎時30トンの大部分は複雑な経路の配管から漏れ出し、炉心にはわずかな量(毎時1トン)しか届いていなかった。しかも今回の分析で、そうしたわずかな水量は却って燃料棒の破損を促進することも分かったのである。そうした予想外のことが起きていることを知らずに消防車を動かし続けたことが、長期にわたる放射能漏れにつながった。
A ベント用配管の欠陥によって放射性ヨウ素が大量に放出
3月15日の夜、3号機の炉内圧力が異常に高まって来たために、現場は圧力を下げるための5回目のベント(内部の空気を外に逃す)を行った。しかし、この時に大量の放射性ヨウ素が環境中に漏れ出した。その原因が思わぬところにあったという発見である。原因は、ベント用配管の一部(30メートル)が地下にあったこと。そこに水が溜まり、5回目のベントの時に配管の内側に付着していた放射性ヨウ素を一気に洗い出して放出したのである。この時の放射能は放出全体の10%に上る大量のものであり、これが現在の帰宅困難地域の発生に直接結び付いているという。
B 使用済み燃料プールへの放水を優先して電源復旧が遅れた
1号機から3号機までのメルトダウンと同時に心配されたのが、4号機の使用済み燃料プールにあった大量の燃料体である。これを冷やしている水がなくなったら、これらもやがて熱で溶けだし、大量の放射能を出し続ける可能性がある。1号機から3号機の電源復旧が先か、プールの水を補給する方が先か。現場は、電源復旧を優先させたいと考えたが、結局、指揮命令系統が「政府・東電事故対策統合本部」に移った時点で、プールへの放水が優先され、電源復旧は後回しになった。
結果的には4号機には水が保たれており、この優先順位の取り違えが電源復旧を遅らせ、長期の放射能漏れにつながった。プールへの注水を優先した背景には、アメリカ側からの強い示唆があったというが、これが裏目に出たわけである。しかし、4号機の水面の観測が充分でなかったことから言えば、難しい判断だっただろう。過酷事故の時は、判断材料が限られたまま次々と対応を迫られるが、それが結果的に重大なミスにつながることが多いという例である。
◆机上の設計に過ぎない過酷事故対策
今回分かった地下にあるベント配管の欠陥以外にも、Nスペ「メルトダウン」はこれまで、高温高圧時の水位計の欠陥、ベント関係設備の欠陥、主蒸気逃し弁の欠陥、非常用冷却装置の欠陥など、様々な構造的欠陥が過酷事故と大量の放射能漏れにつながったことを指摘して来た。これらの大部分は他の原子炉にも共通したものであり、しかも新たな規制基準でも改善されていない。あるいは、福島事故後に新たな過酷事故対策として他の原発でも採用されている消防車による注水も、水は本当に炉心に届くのかといった検証がされているわけではない。
複雑で巨大なシステムである原発では、実際に核燃料が溶けだすと言った過酷事故の状況を人為的に作りだすことは危険すぎる。従って、過酷事故時に、様々な安全対策が有効かどうかを前もって実験することは極めて困難なのである。しかも、過酷事故の時は、巨大な熱量を持った核燃料が一気に暴れ出す。その時には、想定外の事象が次々と秒単位で起こる。これを人間の力で抑え込むのは、奇跡でも起きない限り難しい――これが、福島の教訓。前もって考えられていた安全対策で充分かどうかは、常に疑問なのである。つまり、「新たな規制基準を満たしたから、滅多に事故は起きない」、「万一起こったとしても、対策は出来ているから再稼働しても大丈夫だ」というのは、現時点においても、全くの安全神話(思考停止)に過ぎない。番組は、抑制的に「原発に100%の安全はない」と言っているが、私の意見からすると「原発は未完の技術であり、危険な欠陥商品だ」ということになる。
◆再び、メルトダウンを起こさないために
最近読んだ本に、覆面の現役キャリア官僚(作家名、若杉冽)が書いた「東京ブラックアウト」という小説がある。巨額な金が動く「電力モンスター・システム」に群がる原子力ムラとその周辺の人間たちが、原発再稼働に向けて暗躍する様子を描いている。電力業界が関係者に甘い汁を提供する一方で、原発政策を担う官僚機構も地元政界も必死に反対派を抑え込み、辛口のメディアに圧力を加えると言った作戦を展開する。それは殆どが「事実」に違いない。そこにあるのは目の前の経済的利益であり、官僚たちの我が身の出世である。
日本の原発政策を推進している「電力モンスター・システム」の中では、原発の安全問題などを持ち出すのは、「“時流”が見えない連中」なのである。小説「東京ブラックアウト」では、再稼働が始まった“新崎県”の原発が、テロによって再び大きなメルトダウンを起こし、関東一帯が居住不能になり、日本は北と西に分断されてしまう。その後の展開は、若干荒唐無稽の感じもするが、それでも(福島原発事故との時と同様に)誰も責任を取らないのが象徴的だ。
福島原発事故のような重大事故の解明は、本来は(国会事故調が求めるように)国が徹底的、継続的に調査を行い、すべてを世界に公表すべきなのだが、日本ではそれも開店休業状態だ。原発再稼働に向かう、こうした“時流”が勢いを増す中、Nスペ「メルトダウン」は孤軍奮闘的に事故の現実と向き合いながら、事実を積み重ねて、新たな「安全神話(思考停止)」の危うさに警鐘を鳴らして来た。何度も書いて来たように、東日本大震災の後の日本は巨大地震と大噴火が連鎖する「地下大乱の時代」に入っている。日本はテロだけでなく、原発に予想外の事象が起こる確率が世界で一番高い国と言っていい。
その意味で(Nスペ「廃炉への道」も大事だが)、「メルトダウン」シリーズは、日本はもちろん世界にとっても、原発安全に直結する貴重な財産になって行く筈だ。番組の中でも言っていたように、事故の解明はまだまだ入り口に過ぎない。是非、これからも続けて行って欲しいと思う。
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