時あたかも終戦記念日の前日(8/14)に、岸田が突然に次期総裁選に出ないと言ってから半月あまり。この数日こそ、台風10号のニュースに押されはしたが、自民党もメディアも蜂の巣をつついたように、総裁選のニュースでもちきりだった。一方で新聞は、首相在任3年間の評価について様々な特集を組んだ。大まかに言えば、政権発足時に掲げた「新しい資本主義」が腰砕けになったのを始めとして、彼が首相として何がやりたかったのか最後まで見えなかった、といのが大方の評価である。一方では、首相に居座るための案件にはことのほか執着した。
専守防衛を空洞化させる敵基地攻撃能力の保有や、防衛関連予算の倍増を盛り込んだ安保3文書の改訂、官僚の意を汲んだ原発の最大限利用などなど。「聞く力」とは裏腹に、国民的議論のないまま、国の根本にかかわる重要政策を平然と進めたのは、アメリカや党内右派、官僚の意向に応えることによって、弱小派閥の自分を守るためだった。麻生などは一時期、「安倍晋三が必死にやろうとしてできなかったことが、岸田になったら全部できている」と持ち上げたが、最後には憲法改正まで持ち出して、自分の延命に利用しようとする姑息さだった。
◆総裁戦について生成AIに質問する
党内情勢ばかりを気にして、国民の方を向くことがなかった岸田の評価はこのくらいにして、岸田によって空費された3年間を取り戻すために、日本は次のリーダーとして誰を選ぶべきなのか。政治記者の下馬評は別として、試みに生成AI(GPT4)に日本のリーダーの必要条件を幾つかの質問にしてみた。例えば、課題大国とも言われる今の日本で、首相が掲げるべき国家ビジョンは何か。莫大な借金を減らしていくための具体的政策とは何か。一国のリーダーが備えるべき資質、条件とはどんなものか。また、どのようなブレーンを集めるべきか。
さらに、いま候補に挙がっている一人一人の評価(強みと課題)を聞き、総合評価として誰が最もふさわしいと思うかを聞いた。最後に、一国のリーダーを選ぶに等しい総裁選の報道に於いて、メディアの役割はどうあるべきかについても聞いてみた。AIは質問(プロンプト)が大事になる。出来るだけ答えが明確になるように具体的に質問し、時には「あなたが首相だとして」というような条件を付けることも効果的。質問を書き入れるとほぼ同時にAIは答えを返して来るが、こうした質問で30頁にもなる答えが20分もかからずに出来上がった。
◆課題大国の日本が掲げるべき国家ビジョンは?
AIの答えは、無難でまっとう過ぎるところもあるが、正論と言えば正論なのでそこを踏まえた上で書いておく。最初に、日本が少子高齢化や国の借金、経済の衰退など様々な課題を抱えた「課題大国」であることを伝えた上で、日本のリーダーとして、どのような国家ビジョンを掲げるべきかについて、AIの答えである。@「持続可能な経済成長と財政再建」日本の強みである技術革新と教育を活かし、デジタル経済、グリーンエネルギー、バイオテクノロジーなどの新たな産業分野を育成し起業を支援する。また周到な計画(*)で国家財政の健全化を図る。*)AIは財政再建の詳細なプロセスも答えて来たが長くなるので省く
A「環境保護とエネルギー転換」脱炭素を重視し、炭素税の導入と再生可能エネルギーへの転換を推進。B「若い世代が未来に希望を持てる社会」教育の充実、キャリア支援を強化、社会全体で若者を支える仕組みを構築し、地域社会と連携して若者の居場所を作る。C「少子高齢化への対策」。D「平和外交と安全保障」平和的な外交政策によって隣国との信頼関係を深める。自国の防衛力を強化しつつ、国際協力を通じて地域の安定化を図る。E「社会的包摂と多様性の尊重」女性の社会進出を支援し、賃金格差を解消。多様な人々の社会参加を支援する。
◆首相の資質とブレーンの資質、条件
次に聞いたのは、上記のようなビジョンを遂行していくための「国のリーダーとしての資質、条件」についてである。これは沢山挙げて来た。まずは、「明確なビジョンと戦略的思考」。未来を見通し、政策を計画的に進める意志と能力が必要になる。「リーダーシップと決断力」。「倫理観と誠実さ」。「コミュニケーション能力」。国民との対話を重視し、分かりやすく伝える説明力や対話力のことである。「共感力と包容力」国民の声に耳を傾け、異なる価値観を尊重する。もちろん、自分がこれと思う改革を困難な状況でも貫く「信念の強さ」も大事。
この他にも、AIは「歴史感覚」、「ビジネスセンスと経済への理解」、「国際感覚と外交力」、「危機管理能力」なども挙げたが、これからみると岸田は首相として適格だったかどうか。また、岸田は案外孤立していて、周りに参謀やブレーンがいなかったとも言われるが、首相を支えるブレーンの条件についても聞いてみた。答えは「多様な専門知識を持つ集団」、「戦略的な政策立案能力」、「首相に信頼され、簡潔かつ分かりやすく伝える能力」、「政治的調整力」、「国際的視野と人脈の豊かさ」などだが、こういう人材にも恵まれなかった岸田の不幸でもある。
◆日本のリーダーに最もふさわしいのは?
このように見て来ると、今日本には、こうした条件に適う政治家やブレーン集団は果たしているのだろうかと思わされるが、では、いま総裁選に手を上げようとしている面々をAIの基準をもとに品定めをしたらどうなるだろうか。AIに質問してみると、河野太郎、茂木敏允、小泉進次郎、上川陽子、高市早苗、石破茂、林芳正のそれぞれ強みと課題を挙げて来た。例えば、国民的には人気の高い石破茂については、安全保障の専門性や地方重視などの強みの一方で、党内の支持基盤や過去の対立などに課題があると答え、かなり学習しているのが伺える。
小泉進次郎についても、改革志向がありカリスマ性もあるが、経験不足(特に外交、経済政策)や信念の一貫性が不十分との指摘も。その他の面々も一長一短あるので、これらをすべて総合的に評価して、現時点で誰が今の日本のリーダーに最もふさわしいかを聞いてみた。そうすると、意外なことにAIがあげて来たのは林芳正だった。「外交や国際関係に確かな実績をもち、知的なリーダーシップを発揮できる。国内での支持を強化し、内政においてもリーダーシップを発揮できるなら総合的に非常に適任」という。彼を石破や小泉が支えるかどうかだとも。
◆メディアは総裁選に機能できるか
別段、誘導したわけでもないので、これはこれで一つの答えとしてみておきたい。しかし、この先の総裁選はドロドロした利害関係、暗闘の中で決まって行く。誰も国民の方を見ない、金まみれの古い体質のままの耐用年数が過ぎた自民党がそこにある。メディアもこれからは、この争いに巻きこまれていく。連日、ボスたちの駆け引きなど、底の浅い政局中心の解説に終始して行くだろう。この時、メディアはどんな役割を果たすべきなのか。AIにも聞いたが当たり前の答えしか出してこないので、メディア自身がテーマを用意して候補者に問うべきかを聞いた。
AIの答えは「メディアが国家ビジョンや政策に必要なアジェンダを専門家と共に作成し、そのアジェンダに基づいて候補者に質問し、その回答を評価するという役割は、非常に重要で効果的な方法です」。大統領討論会にメディアが質問項目を用意するアメリカ(CNNやNBC)や、事前に設定したアジェンダで専門家と共に候補者の評価をするイギリス(BBC)の例などを挙げて来た。日本も、予め専門家との共同で国家ビジョンや政策に関するテーマ(アジェンダ)を設定し、独自の評価をするくらいの能動的な機能を発揮してみたらどうかと思う。
今回の裏金問題の処理に見るように、今の永田町はその場しのぎ。党内の力学ばかりに右往左往して、誰も真剣に国民の声に耳を傾けず、誰も声を上げなかった。そんな自民党にいた人々が、ここぞとばかりに手をあげて、自分こそリーダーに相応しいと言い始めている。それに騙されて、自民党は変わった、刷新されたと国民が思うかどうか。総裁選、首相の選出、総選挙と動いていく日本である。
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