半月前の5月15日、コラム「民進党へのラブレター①」を更新した直後に、7年使っていたパソコンWindows vistaが突然壊れてしまった。いくらやっても画面が開かない。パソコンがクラッシュ(突然死)することは、以前から密かに恐れていたのだが、そのとき頭をよぎったのは、パソコンの中にあるデータがうまく取り出せるかということだった。何しろ、外付けのハードディスクはあるが、怠慢でバックアップもろくにとっていない。20年近くになる日記や大学での講義録、住所録、(私にとっての)重要情報、それになんと言っても11年続けてきた「メディアの風」の原稿もある。これが消えたとしたら、かなりの喪失感に襲われそうだった。
そこで、手持ちのiPadで近辺のパソコン修理屋を検索し、片っ端から電話してみた。出張で診断するという修理屋が結構あって、その中から当日に来てもらえる人を探した。修理屋と言ってもピンからキリまでで、事務所も持たずに周辺を回っている人もいる。最初に来てもらったのもそういう人だった。とりあえずパソコンに何が起きたのか、故障は重大なものなのか、単純なものなのかを知りたかったためもある。しかし、その人は自宅に持ち帰って調べないと詳しいことはわからないと言う。10日ほど預からせてもらえば新しいパソコンにデータの移行もすると言う。
来てもらっただけで8400円(出張費と診断費)、さらにデータの取り出しなどで5万円ほどかかると言う。またその間、こちらは新しいパソコンWindows10や必要なソフトを買って彼に渡さなければならない。しかし、一番の懸念は預けている間にパソコン内の情報がどうなるかだった。他人にとってはどうでもいいようなものだが、仮に流出したりすれば自分にとっては嫌な事件になる。そこで、熟慮の結果、その人は断ってネットで見つけた大手の修理チェーン(PCDEPOT)に電話してみた。
◆大手の修理チェーンへ持ち込む
そこはパソコンなどの機器も扱っていて、必要な機器類はそこですべて調達できるという。幸いなことにタクシーで行ける距離にある。データの流出防止についても覚え書きを交わして確実に消去していると請け合った。そこで翌朝に壊れたパソコンを持ち込み、対応してもらうことにした。夕方までには診断と見積もりを出すというので再度行ってみると、データは間違いなく取り出せるという。しかし、最新のWindows10にするには、プリンタや無線LANなどの周辺機器、そしてホームページのソフトまで新しくしないといけないと言う。
見積もりは結構な金額になったが、ここで相手から提案があった。パソコンなどをレンタル扱いにし、合わせて携帯をiPhoneに変えて会社と契約すれば頭金は1/5位で、後は月々の支払いで行けるという。しかもその間、メンバーになればパソコンの修理なども格安で見てくれるらしい。レンタル料金は3年で消化する設定らしいが、そうするとまた新たなパソコンに買い替えなければならない。うまく言いくるめられた気がしたが、必要な機器類も準備し設定もしてくれるというので、結局それに乗ることにした。
通常10日かかるというところを、特急料金を払って7日でやってもらい、目の前でデータも消去した。セット一式を家に持ち帰って新しい無線LANにつないで見ると、Windows10の使い方や、インターネットやWordなどのオフィスソフトなども、使い慣れたものとはずいぶん勝手が違う感じがしたが、ともかくも起動した。やがて嫁いだ娘がやってきて、メールの再設定やインターネットやドキュメントの画面も見慣れた表示に変えてくれた。新しいiPhoneには、(ただで電話できる)LineやFaceTimeなどのアプリも入れた。これで80%は回復したことになるが、問題はHPだった。
◆悪戦苦闘のホームページの回復
以前のHPソフトは10年以上も前のホームページビルダー9である。Windows10には最新版の20を入れてあるが、開いて見ても、どうやったらいいか見当がつかない。データ移行したドキュメントの中にはHPのデータも入っている筈だが、果たして全部なのか、どうすれば以前のようにバージョン20でサイト全体が見られるようになるか分からない。そこで窮余の策として、サイトを運営しているプロバイダー(KDDI)からもらったIDとパスワードを用いて、ネット上の私のサイト(「メディアの風」)からデータファイルをPCにダウンロードすることにした。
ホームページビルダー20のメーカーである「ジャストシステム」に電話し、製造番号やユーザーIDを言って、ダウンロードの方法が載っているサイトを教えてもらい、その通りにやってみた。次に、ダウンロードしたファイルを20に読み込ませる方法のページを見てやってみると、やっとバージョン20の中に見慣れたファイルの全体像(ディレクトリ)が現れた。やれやれだが、この間、何日かかっただろうか。
◆転送が出来ない理由がわかない
さて、何とか新しいバージョン20の中に復旧した「メディアの風」のファイルだが、更新したものをネット上の私のサイトに転送しようとすると、何度やっても失敗する。その都度、「アクセス権は変更できませんでした」だの、「転送先ホルダーが間違っているのでは」とか、あげくには「時間オーバーで終了しました」や「エラー表示」が出てきてしまう。メーカーが作った「転送失敗」のページを見て、様々なケースを検証したがどうにも分からない。そこで、「転送先のホルダー」が正しいのかどうか、今度はサイトを運営しているプロバイダーのKDDIに問い合わせてみた。こちらもKDDIのユーザーとしてのID番号やパスワードが分からないと電話もかけられない、厄介な仕組みになっている。
IDとパスワードを再設定してKDDIに電話し、ようやく先方が運営する「安心トータルサポート」(月額500円)というサービスにたどり着いた。電話に出た担当者が私のパソコン上に「遠隔ツール」というソフトを入れ、向こうから私のパソコンを直接操作する仕組みだ。その日は3人の担当者がのべ5時間にわたって、ホームページビルダーからの転送を試みてくれたが、結局、転送は出来なかった。新しいウィルスソフトが強すぎるのではないかというので、いったん外して試みたりしたがダメ。ついに別の転送専用のソフト(FFFTP)を使って転送してみたら、やっと不完全ながらサイト更新に成功した。疲労困憊の一日だったが、根本的な解決には至らなかった。
◆電子の森に迷い込んで迷子になる
担当者にはホームページビルダー20の不具合かもしれないのでいったん削除して入れ直したらどうかとも言われたが、本当なのだろうか。半信半疑で再びホームページビルダーの「ジャストシステム」に電話すると、「そんなことはない筈だ」と言う。もうすっかり、ITという森の中で迷子になってしまったような感じで、どこが出口か全く分からない。しかし、別の転送ツールで曲がりなりにも更新した形にはなったのだからもう一頑張りと、心を励ましてITに強い知り合いを当たって、ノートパソコンを持って訪ねていった。
そうしたら、「転送設定の詳細」を細かくチェックしてもらっているうちに、何故かうまく転送できるようになったのである。問題は、一気に全部のファイル(私の場合1300ほど)を送ろうとしたことだろうか。その中に転送の記号形式を踏んでいないファイルがあって、途中で止まってしまったのかも知れない。そこで、更新したファイルだけを送る設定を選んだらうまくいくようになったと言うことだ。これなら実際の作業上も問題ない。PCクラッシュから半月、私の場合は人手に頼るアナログ的方法も多用したが、悪戦苦闘の末ようやく出口が見えてきた。
それにしても今の時代、ITという「電子の森」の中で迷子になっている人がいかに多いか。それは、町のPC救急隊や大手の修理チェーンの盛況ぶりを見てもわかる。顧客の中には、私のような高齢者も多いに違いない。情けないことに、出てくる新しいIT用語の意味が分からず、一つ一つネットで確かめながら進むしかない。しかもその「電子の森」は、今や誰も全体像がつかめないほどに急速に巨大化している。こうなると、いつまで日進月歩のネット空間とつきあうのか、あるいは呆けてしまう前にネット上やパソコンの中に残った情報や課金サービスをどう整理(断捨離)するかは、「デジタル遺産」の問題として、すぐにも考え始めるべきテーマになってくる。近々「コラム」の方でも考えてみたい。
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