日々のコラム <コラム一覧>

一人の市民として、時代に向き合いながらより良く生きていくために、考えるべきテーマを日々取り上げて行きます。

脱原発でもガラパゴス化? 17.9.18

 ガラパゴス化とは、10年前のアップル社によるiPhone(スマホ)の投入をきっかけに言われるようになった。外国生まれの新技術への対応が遅れたために、その技術が国内に入ってきたときに従来技術が駆逐されてしまうということを言う。原因としては、国内市場に固執して新技術の導入が遅れたことがある。スマホの場合は、保守的な大手電話会社がネックとなり、メーカーの自由がきかなかったこと、政府の産業政策も従来の携帯重視だったこともある。
 その結果、今や携帯の75%はスマホになり、日本の携帯はガラケーなどと言われて隅に追いやられている。そして、先日のアップル社によるiPhoneXの発表のように、革新的技術は日本からは生まれず、メーカーの方も下請けに甘んじる状況になってしまった。 

◆世界で進むEVシフトの中で日本の自動車は生き残れるか?
 同じようなことが、電気自動車(EV)でも懸念されている。9月16日から始まったドイツ・フランクフルト自動車ショーでは、話題は世界(特にヨーロッパ)のメーカーの「EVシフト」だった。地球温暖化や環境対策から、ノルウェー、オランダが2025年までに、インドが2030年までに、そして英仏が2040年までにガソリン車などいわゆる化石燃料車を販売禁止にする政策を打ち出す中で、各メーカーがEV車にシフトする方針を打ち出した。ドイツのフォルクスワーゲンが2025年までに50車種のEV車を投入、スエーデンのボルボも2019年以降全てのガソリン車の生産を停止する方針を発表している。

 これには世界最大の自動車市場である中国がEVシフトに舵を切ったことが大きい。メーカーに一定比率のEV車生産を義務づける方針で、この方針転換をにらんだ各国メーカーの動きが急になっている。しかし、ヨーロッパのメーカーに比べて、日本メーカーの出足は遅れており、この自動車ショーへの日本からのEV参加はホンダだけだった。ハイブリッド車はEVから排除されるので、これに社運を賭けてきたトヨタなどは、選択を迫られているが、世界のEVシフトに対し、日本の世耕経産相は「いきなり電気自動車に行けるわけではない」と、日本が開発してきたプラグインハイブリッドや燃料電池車などを含めて中長期的な視野で考えたいとしている(9/15)。

 ガソリン車から電気自動車へのシフトが、今後どのように展開するのか、素人の私には分からない。しかし、既にEV車の新興勢力であるアメリカのテスラ社(イーロン・マスクCEO)は、今後世界で需要が高まるバッテリー需要を見越して今年、ネバダ州に世界最大のバッテリー工場(ギガファクトリー)を建設した。このテスラ社も2010年代後半から年間50万台のEV車を生産する予定だが、世界の潮流になりつつある“100年に一度の大転換(EVシフト)”に日本は対応出来るのか。スマホと同じガラパゴス化を招かなければいいがと、懸念の声が上がっている。

◆エネルギーの分野でも大転換が
 実は、テスラ社が建設している世界最大のバッテリー工場が狙っているのはEVシフトだけではない。今、世界中で建設が始まっている太陽熱発電への売り込みである。CEOのイーロン・マスクは去年、太陽熱発電のベンチャー企業を買収、その技術力とバッテリー供給力で「21世紀型のエネルギー帝国」を作る野望を持っているという。その彼が、狙いを定めたのが南オーストラリア州に建設予定の世界最大の太陽熱発電プロジェクト「オーロラ」だ。彼はここに作られる最大規模のバッテリー蓄電施設の入札を勝ち取ったが、その時の「建設工期に一日でも遅れたらタダにする」という決め台詞(せりふ)が話題になった。

 太陽熱発電とは、広大な敷地に反射鏡を敷き詰め、中央にある塔の先端の溶融塩を超高熱に熱するもの。それを地下に引き込みタービンを回す仕組みだが、バッテリーは、この発電のムラをならして安定化するために使われる。南オーストラリア州は、この発電所で作られる電気で州政府機関の全体をまかない、余った電力を住民に供給する。こうした太陽熱発電は、チュニジアのサハラ砂漠でも構想されており、ここで発電されるおよそ原発5基分の電力を海底ケーブルでヨーロッパに送電するアイデアである。

◆脱原発分野でもガラパゴス化が進む日本
 太陽熱発電など、再生可能エネルギーが急速に普及しつつある背景には先進国の原発が終焉に向かうという大きな潮流がある。すでにドイツは2022年までに全ての原発を停止する方針だし、世界最大の原発国・フランスも前政権から原発全廃を打ち出し、さし当たって2025年までに今の70%から50%に削減する(17基の原発廃止)。そのフランスでは、政府が原発の中長期の経済性を詳細に検討した結果を公表しているが、それによれば「(原発コストは)不確定で、それ故に安くならず、高くなる一方だ」という結論だったという(「脱原発、フランスでも!世界9月号」)。

 こうした脱原発の潮流に対し、電力の需給を安定させる手段が、徹底した省エネと再生可能エネルギーの導入になるわけである。そういう観点から見れば、世界の再生エネへの潮流は止めることが出来ない。安全コストが膨らみ続ける原発に対して、再生エネのコストは下がり続けており、国際エネルギー機関(IAEA)によれば、その投資額は2015年で36兆円に達し、発電設備全体の70%にまで及んでいる。こうした世界の潮流に対して、日本のエネルギー政策は携帯やEVと同じように乗り遅れ、やがて日本はエネルギー転換においてもガラパゴス化するのではないか。

 2014年に策定された日本のエネルギー基本計画は、一方で原発について「依存度を可能な限り低減する」と言いつつ、他方では「重要なベースロード電源(2030年で22%程度)」と位置づけるいい加減なものだ。再生エネについては24%程度と見込みながら、既存の電力会社に配慮して送電線への受け入れを絞っているために、思うように普及していない。日本では、まだ太陽光や風力発電量は全体の1割半ばで、欧州諸国に遅れをとっている。一方の、原子力ムラが頼みとする原子力も、安全対策の遅れなどから、今はたったの2%でしかなく、日本が原発なしで十分やっていけることは、この6年で証明済みになっている。

◆未来に立ちはだかるガラパゴス化のDNA
 それでも、政府や電力会社の既得権益集団は原発維持にこだわり続け、3.8兆円に上る安全対策費をつぎ込もうとしている。9月13日には、長らく懸案だった新潟県柏崎原発6,7号機の再稼働について、原子力規制委員会は条件付きで容認を打ち出した。22兆円もかかる福島原発事故処理費の東電負担分(16兆円、1年あたり5千億円)の費用を捻出するための再稼働容認である。しかし、事故の収束に当てるために危険な同型原発(BWR)を稼働させるのは、理に合わないし、当然そこで増える安全対策費は、国民負担に回されることになる。

 柏崎原発も、地元の同意が得られなければ再稼働はできず、日本の原子力は今後も、「重要なベースロード電源」とはほど遠い状況が続く。それでも、政府経産省は新たな諮問会議を設けて、再稼働や新設をしやすくするために計画の見直しを目論んでいる。懲りない面々である。こうした、自分たちの都合しか見ない(現実から遊離した)政策がまた、世界の潮流に乗り遅れる原因を作って行く。そして、先のない原発が税金や電気料金の形で確実に国民のカネを飲み込んでいく。
 それによって遅れるのは、未来を切り開く再生エネへの投資であり、技術だ。未来の可能性に立ちはだかる原子力ムラと言う壁。誰か、日本社会に染みついた産官学の「ガラパゴス化のDNA」を取り除くような革新的な事業者が現れないかと思うが、残念ながらやはり海外に期待するしかないのだろうか。

北朝鮮問題の核心とは何か 17.9.6

 北朝鮮がICBMと称する「火星12型」のミサイルを発射した8月29日の早朝、まだ寝ていた私は、NYからの次男の国際電話で起こされた。「日本のニュースでは大変なことになっているけど大丈夫?」という電話だった。慌ててテレビを付けてみると、東日本全域に及ぶ12道県にJアラート(全国瞬時警報システム)が配信され、アナウンサーが緊迫した表情で「北朝鮮西岸からミサイルが東北地方の方向に発射された模様です。頑丈な建物や地下に避難して下さい」を繰り返していた。

 続けて、「さきほど、この地域の上空をミサイルが通過した模様です。不審な物を発見した場合には、決して近寄らず、直ちに警察や消防などに連絡して下さい」という情報も。それから次男とLineで「ミサイルは北海道沖合1180キロの所に落ちたらしいけど、この影響がどう出るか、面倒だね」(私)、「うん。アメリカがどう出るか微妙だよね」(息子)、「被害がないのだから冷静になって貰いたいね」(私)、「でもやたら日本のテレビが重大ぶってるな−。異例だと。」(息子)などとやりとりする間も、テレビは4,5時間にわたって中継を続けることになった。

◆事前に情報を知らされていた日本
 ミサイル発射18分後には、安倍首相が「国民の生命をしっかりと守っていくために万全を期してまいります」とコメント。さらに会見で「我が国を飛び越えるミサイル発射という暴挙は、これまでにない深刻かつ重大な脅威であり、地域の平和と安全を著しく損なうものであり、断固たる抗議を北朝鮮に対して行いました」と述べたが、実はこのミサイル発射について日本は事前(前夜)にアメリカから知らされていたという。官邸近くに宿泊した安倍も菅もあるいは、北海道の危機管理対策室も、そして一部メディアも事前に知って準備していた兆候(あまりに準備が早かった)がある。

 日本が珍しく「ミサイルの発射直後から完全に把握していた」というには、こういう裏事情があったわけだが、それでも、広範囲にJアラートを発して、公共交通機関まで止めたのは何故か。空襲警報の大規模予行演習の考えもあったのか。それとも、「危機に強い首相」の姿をアピールするなどの政権浮揚の思惑(こういう言説がネットには溢れている)も絡んでいたのだろうか。いずれにしても、知っていたなら事前に国民に知らせる方が親切というもの。東京新聞の望月記者は菅の記者会見で、相変わらず厳しくこの点を追及している。

◆日本の幻想に縛られて、視野狭窄に陥るメディア
 その後の北朝鮮はご存じの通り。9月3日の未明には6回目の核実験を行い、これは広島原爆の10倍以上(160キロトン)の威力をもつ水爆実験だった可能性が高い。アメリカに届くICBMと、それに積む核弾頭の開発に血道を上げ、しきりにアメリカを脅迫する北朝鮮。その北朝鮮に対し、安倍首相はトランプ大統領と連日にように電話会談を行い、北との対話を拒否するアメリカと一緒になって圧力強化路線をひた走る。制裁のカギを握る中国やロシアは、対話の必要を訴えてこれ以上の制裁強化に難色を示すが、首相は制裁に同調するよう訴えて奔走している。 

 メディアも連日この問題を報じているが、政権の動きに引きずられるあまり、視野狭窄に陥っているようにも感じる。ワイドショーなどでは特に、(教育問題、弁護士、家族問題などの)専門外の評論家が訳知りにコメントをしているのにうんざりするが、これは、一部の報道番組のキャスターも同じ。ここまで問題が大きくなって煮詰まってくれば、もっと高度で専門的な分析が欲しいと思うのだが、相変わらず「日本にとっての深刻な脅威。もっと強力な制裁を」という政府と同じの “願望的コメント”から一歩も出ない。それがいかにピント外れなのかを書きたいが、その前に、今の北朝鮮が何を狙っているかをおさえておきたい。

◆北朝鮮は何を狙っているのか
 一連の核とミサイルの開発は、いったんは核放棄の合意に至った6ヶ国会議の共同声明(2005年)後も、オバマ大統領が(中東のイラン問題に気を取られ)一向に北との平和共存に興味を示さず、放置して来たことが大きい。金体制(王朝)の存続を保証して貰うために、アメリカとの不可侵条約や平和条約を求めて来た北朝鮮の要求に応えずに、問題を軽視し、ひょっとすると都合良く金体制が崩壊するのではないかと願望しつつ、10年以上も放置して来た。そのことのツケである。このアメリカに対して、北朝鮮は敵視政策をやめることと、体制保証の対話に着くよう要求して、カードとなる核とミサイルに執着して来た。

 体制の保証が第一。核とミサイル開発は、(北の言い分によれば)何かと言えば北の体制崩壊(金正恩の排除)を狙って圧力を高めている米韓の敵視政策に対する防衛力強化と言うことになる。プーチンは、体制保証に安心するまでは、北は雑草を食べても核とミサイルを離さないだろうと言う。もう一つ厄介なことに北には、建国以来の願望として、いつの日か北主導による南北統一を果たしたいという夢もあるが、これはあくまで大義名分的な願望であり、韓国と同盟国のアメリカが許さないだろう。同様に韓国にも韓国主導で統一を図りたい夢がある。これは朝鮮民族自身の問題であり、核とミサイル問題は、南北統一問題と切り離さないと進まない話だ。

◆日本は当事者か?勘違いのメディア報道
 見てきたように、北朝鮮の対象はあくまでアメリカであり、日本などではない。強いて言えば、いざ戦争となったときに、日本は(国内に米軍基地を持ち集団的自衛権を行使する)アメリカの同盟国として、攻撃対象になる国であり、交渉の当事国ではない。それなのに、日本はまるで当事国のように大騒ぎして、二国間対話を妨害しようとしている。これが、北が日本に苛立ち、何かと脅しをかける原因になっている。もっとも、日本政府には北が核保有国として国際的に認められることに対する強烈な拒否反応がある。それは何故か。

 政府や報道番組のキャスターたちは、声を揃えて「米朝が抜け駆け的に対話し、北の核保有が認められたら“最悪のケース”だ」と言う。しかし、北が核を放棄してくれれば言うことはないが、ここまで北朝鮮が絶対核放棄に応じないと言い、北を追い詰める制裁も中国やロシアの足並みが揃わないとすれば、それを最悪と言って(圧力一辺倒に)思考停止している状況は、合理的と言えないのではないか。日本の隣国には既に中国とロシアという核大国があり、水爆もICBMも多数持っている。ここに北が加わったとして、どういう“致命的な状況”が生まれるのか。日韓の核武装ドミノを心配する向きもあるが、熱い戦争を避けるには、これらを冷徹に検討・シミュレーションすべき時が来ているのではないか。

 金正恩がヒトラーのような征服欲に駆られた人物なら話は別である。しかし、国際的な包囲網の中で体制の存続のみを願っている彼が、それこそ核攻撃をまともに受ける侵略(それも日本に)に踏み切るだけの理由はあるだろうか。平和的な環境が整えば、冷静に考えて、それはない筈だ。報ステの後藤キャスターなども「日本が蚊帳の外に置かれて、米朝が妥協するのは避けたい」などと言っているが、では日本は何か有効な手立てはあるのか。圧力の継続は必要だと思うが、制裁のカギを握る中国とロシアが、「これ以上の制裁は危険。今こそ対話を」と言っているのに対して、どうするのか。日米で今度は中国に圧力をかけるというのだろうか。

◆単線思考でなく、戦争を避けるための多角的な報道を
 もちろん、覇権国アメリカが、今の傲慢な北朝鮮に絶対的な拒否反応を示すことは当然だが、その一方で、アメリカは別のことを考えているかも知れない。政治の世界は相手のあることなのだから、最悪のケースを避けるためには、米朝を含めた6各国で核の凍結も含めた妥協線を見いだすしかない。安倍はともかく、日本はアメリカ追随だけなく、問題の核心を踏まえた様々な選択肢を冷徹に検討すべき時に来ている。核とミサイル問題は、力の論理が幅を効かせやすい微妙なテーマであるだけに、メディアも論調が“単一路線”になることを避け、出来るだけ多角的な報道を心がけるべきだと思う。

人質事件に似る北朝鮮問題 17.8.27

 米韓両軍は8月21日から31日まで、韓国各地で合同軍事演習(ウルチ・フリーダムガーディアン)を行っている。これは主にコンピュータを使った机上演習だが、北朝鮮の核・ミサイル施設の先制攻撃や、体制崩壊を想定した5015計画の演習だという。これに対して北朝鮮は「火に油を注ぐことになる」と激しく反発、26日には、3発の短距離ミサイルを発射している(*)。「世界が見たことがない炎と怒りを受けることになる」というトランプの恫喝に対して、北朝鮮が日本上空を通過してグアムにミサイルを打ち込むとして以来、東アジアでは依然として緊張した神経戦が続いている。
*)29日には、中距離弾道ミサイル「火星12」を予告なしに発射し、北海道襟裳岬上空を通過して太平洋沖に着弾させた。

◆米韓の北朝鮮制圧計画
 北の体制崩壊を目論むアメリカと、それに反発して核とミサイルを開発してきた北朝鮮。その関係は、今となってはどちらが鶏か卵か分からなくなってしまったが、北の核ミサイル開発に対抗する米韓の軍事演習は、金正恩の神経を逆なでするに十分なものではある。2年前に作られた5015計画には、金正恩など中枢部を攻撃する特殊部隊の創設も含まれているし、実際に、朴前大統領時代には彼の「斬首計画」(暗殺計画)の実行も決済されていたという(「実行寸前だった斬首作戦」月刊文春9月号)。それは、朴政権末期の混乱で頓挫したが、今でも米韓両軍は戦時の攻撃目標として500カ所の軍事拠点を巡航ミサイルに入力、いつでも攻撃できるようにしているという。

 金正恩の狂気じみた振る舞いや核・ミサイル開発の脅威を目の当たりにすると、正直言って私なども何らかの手段で彼一人を取り除くことが可能かどうか、あれこれ空想したことがある(これには、ミサイル発射直後にその場所を小型核爆弾で攻撃することも含まれる)。アメリカによる金正恩へのピンポイントの攻撃は可能か。あるいは彼一人さえ除去すれば、体制は崩壊するのか。これは、北の脅威に手こずる日米韓の政権の誰もが一度は夢想することに違いない。しかし、いかにその先制攻撃が強力、効果的なものであっても、その成功の代償は、日韓にとって破滅的であることが明白になりつつある。

◆莫大な損害を生む北の反撃
 例えば、実際に北朝鮮を制圧するには、今や5千カ所もの攻撃目標を叩かなければならない。しかも、その一部は地下に設けられており、制圧には相当程度の日数が必要になる。仮に3日を要しただけでも、北の反撃による損害は莫大になる。というのも、北は千門の長距離砲を保有しており、その半分近くをソウルや在韓米軍基地が射程に入る国境沿いに展開させており、これが戦端の開始早々に火を噴けば、1時間に6千から7千発もの弾丸が飛んできてソウルを火の海にするからだ。

 さらには、どこに飛んでくるか分からない千発以上の短距離ミサイルスカッド、200発のノドン(射程130キロ)、40発のムスダン(射程3千キロ以上)、そして60個の核爆弾がある。ミサイル攻撃の点では、韓国よりもむしろ日本の方が危うい。北朝鮮はいざ戦争となったら、同胞の韓国よりも米軍と一体の日本を最初に狙う可能性が高いからだ。その場合は、日本に向けて多数のミサイルを発射し、その中に数個の核弾頭を搭載するという方法がある(干し草の山攻撃)。どれが核弾頭ミサイルか識別できずに撃ちもらせば、日本は破滅する(同「米ペンタゴンが怖れる北の奇襲攻撃」)。

 また、何らかのピンポイント攻撃で、首尾良く金正恩の首が獲れたとしても、それが即、体制の崩壊につながるとは限らない。既に北朝鮮軍は自動機械のようになっていて、暗殺が他国の軍事作戦によるものと分かれば、前もって決められた攻撃が自動的に発動する仕組みになっているという。頭を失った軍部が暴走し始めたら、同じように莫大な損害が日韓を見舞うことになる。アメリカ本土を本格的に攻撃できるICBMの開発には、なお2,3年かかると言われるが、アメリカの先制攻撃に対して北朝鮮は、いつでも韓国や日本に破滅的な損害をもたらす反撃体制を整えているわけである。

◆人質事件に似る状況で日本は?
 こうした状況を概観すれば、北朝鮮と日米韓の関係は何やら人質事件に似ているようにも思える。北朝鮮は確かに、アメリカの軍事的圧力によって、リングで言えばコーナーに追い詰められ身動きがとれない状態にある。しかし、彼は核とミサイルという武器を人質(日本と韓国)に突きつけながら、アメリカに対話を要求している。いざとなったらこの人質を殺して自分も死ぬ覚悟だ。アメリカはその犯人に対して対話を拒否し、「武器を捨てて投降せよ。さもないとお前を射殺する」と言って銃を構える警官の役割になる。(この場合、犯人の武器=ICBMは警官にとってまだ十分有効ではない)。

 これはちょっと考えてみても、なかなかに厄介な状況である。実際には、粘り強い説得で犯人を投降させたり、あるいは犯人の安全を保証したりしながら人質を解放することもあるが、その一方で警官隊の突入などで多大な犠牲を出すことも多い。警官隊が犯人の脅迫や挑発に焦って攻撃に踏み切れば、犯人を射殺することは出来ても、人質も一緒に殺しかねない。その選択は多分に、その国の文化にもよるだろう。平和的解決を目指す日本などは、何日もかかって犯人を説得するが、力に頼るアメリカやロシアなどは、犠牲覚悟で突入する場合が多い。これは人質に取っては最悪だ。

 こうした状況を冷静に考えれば、人質になっている韓国の文大統領が「朝鮮半島での軍事行動は(米国ではなく)韓国だけが決定することが出来る。政府は全てをかけて戦争だけは避ける」(8/15)と平和的解決を訴えたのも当然と言えば当然だ。問題は日本である。「今は対話のための対話は無意味。アメリカと一体になって圧力をかけ続けることが重要」などと(上から目線で)言っているが、これを人質の身で言うのはいかがなものか。そうでなくとも、当のアメリカ(警官)はこれまで、さかんに先制攻撃や武力的解決を匂わせてきた。その警官と一体になって、人質が(自分の身が危うくなる)軍事的解決を容認したり夢想したりするのは、立場的に思慮がなさすぎる。

◆戦争を避けるための粘り強い交渉を
 以上はたとえ話だが、米艦が攻撃されたら日本も集団的自衛権を行使するなどと軽々に発言(防衛相)するのは、愚かなことでしかない。人質事件の場合、その平和的な解決のためには、それこそ焦った方が負け。犯人を刺激せずに粘り強い交渉が必要になってくる。焦って突入すれば、多くの場合人質に甚大な被害が及ぶ。それをも“解決”と言ってきたのは、力に頼る国々だ。もっとも、当初は「全ての選択肢はテーブルに乗っている」と軍事攻撃を強く匂わせていたアメリカも、最近は(日韓に配慮して)対話による平和的な解決しかないことを認めだしている。
 ティラーソン国務長官、マティス国防長官は連名で新聞(8/14、ウォール・ストリート・ジャーナル)に、北の暴発に警告を発しつつ「米国は北朝鮮と交渉する用意がある」と寄稿した。にもかかわらず、トランプと金正恩は、相変わらず互いに挑発的な言葉を投げ合っている。(メディアもそれに悪のりする)

 アメリカの忍耐も北がアメリカにも確実に届くICBMを開発するまで、という時間的制約があるので、北朝鮮問題はこれからも緊迫したものになるだろう。それでも、戦争は何としても避けなければならない。イラク戦争を見るまでもなく、戦争はいったん始まったら先が見えないからだ。開戦後の東アジアでどんな恐ろしい混乱が派生するか誰も予測出来ない。今こそ「戦争はどうなるか考えたところで、常に予想外のことが起こったり、間違いを犯したりするものだ。予想通りに行ったためしがない」という言葉(アイゼンハワー元大統領)を関係各国全員が(そしてメディアも)噛みしめる時だろう。