インターネットが日本に普及し始めた25年ほど前、私は世界のインターネット事業(IT企業)が今のように巨大になるということがなかなか想像できなかった。仮にインターネット産業が巨大になっても、従来の産業をネットに置き換えるだけではないかと、「山より大きなイノシシは出ない」などと言ったりした記憶がある。しかし、ご存じのように、インターネットは社会や産業のあり方を根底から変え、仕事の仕方も変え、何より経済規模そのものを拡大させる大きな原動力となった。インターネットは山より大きなイノシシになったのである。
私たちはそれでも、時代に遅れまいとして放送70周年記念事業の一つとして、インターネットを使ったNHK初の試み「NHKボランティアネット」を立ち上げたり(1995年)、当時としてはかなり意欲的なインターネット政策を作って役員会に提案したりした(2000年)。しかし、最近のNHKのネット同時配信と同じで、この時も民放や新聞に「民業圧迫」や「肥大化」という理由で反対され頓挫した(*1)。現状にあぐらをかいてネット進出に反対したメディアは、結局は時代に乗り遅れたわけだが、この傾向は他の産業でも同じだった。
その間に、新興のGAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)が生活の隅々に浸透し、暮らしを大きく変えるまでに巨大化した。今や全世界の人々がスマホを使い、グーグルの検索エンジンを使って調べ物をし、FBやインスタグラムで仲間とつながり、ネットが提供するニュースや広告を覗き、欲しいものがあればアマゾンで注文する。GAFAはメディアだけでなく、既存の小売業、広告業、IT製品の製造業などを根底から揺さぶって来た。この先、この巨大IT企業はどこに向かうのか。人類に幸せをもたらしてくれるのだろうか。
◆人間の本能に訴えながら急成長したGAFA
「GAFA〜四騎士が創り変えた世界」の著者、スコット・ギャロウェイ(NY大学教授)によれば、GAFAは人間の本能に訴える形で成長してきた。例えばアマゾンはより多くのものを出来るだけ楽に集めようとする我々の狩猟採集本能に訴え、アップルは、テクノロジー企業から高級ブランドに転換することによって、その製品を持つことが性的魅力を高めると訴える。グーグルはその膨大な知識量によって私たちの脳が前より賢くなったと思わせ、FBは自分が他者に受け入れられ、愛されているという感情に訴えると言う具合だ。
その結果、アマゾンはアメリカ最大の小売業に急成長し、創業者ジェフ・ベゾスの資産(14兆円)は今や世界第一位である。FBは世界の12億人に毎日使われ、世界の20億人が毎日グーグルで検索している。その企業価値はとてつもなく、株の時価評価額も、2017年でアップルが8000億ドル(88兆円)、アルファベット(グーグルの親会社)が5900億ドル(65兆円)、アマゾンが4300億ドル(47兆円)、FBが4100億ドル(45兆円)もある。日本最大のトヨタでも25兆円(2020年)だ。しかも、これらの巨大企業はさらに成長を続けている。
◆世界制覇を目指すGAFA
アマゾンの野望はとどまるところを知らない。 単なる小売業だけでなく、ウェブサービス(AWS)でネットを使った様々なビジネスを提供し、ドローン、航空機、海上輸送にも進出して物流を支配し、映画やドラマ製作にも乗り出して最大級のメディア資産を有する企業にもなろうとしている。アマゾンブランドの製品を売り込み、最近では各地の小売店舗も買収して、そこを商品に触れる店舗だけでなく、配送の拠点、倉庫にも当てようとしている。徹底したロボット化、AI化も進めている。その目指すところは、利益総取りの「世界制覇」である。
FBもグーグルも同じように関連業界を統合しながら、より巨大化を目指しているが、彼らの野望を後押ししているのが世界中から集まる豊富な資金である。投機家たちは、彼らの世界制覇の物語に惹かれて莫大な資金を投入するので、成功までの間は低い配当でも我慢するという、GAFAにとっては夢のような構造になっている。GAFAは、将来自分たちの競争者となる可能性のある企業は、ことごとく買収するかつぶしてきた。新しいベンチャーが育たない状況だとも指摘されており、GAFAの敵はGAFAしか存在しない状況になっている。
◆利益総取り作戦の先に、懸念される問題
巨大IT企業GAFAに制覇されようとしている世界だが、同時に、それにともなう様々な弊害も指摘され始めている。GAFAの利益総取り戦略によって小売業、広告業など既存の産業が次々と駆逐されて行く中で、多くの失業者が生まれていること。その結果、国民の中間層がやせ細り、税金を納めない一握りの超富裕層と大多数の貧困層との格差がますます開いていくこと。ビッグデータから人々の関心の傾向をAI(人工知能)が分析することによって、より刺激的で極端なニュースが提供されるようになり、国民の分断が進むことなどである。
アマゾンやFB、グーグルは自分たちの商売が上手くいくように、膨大な個人データ(ビッグデータ)から徹底的な顧客分析を行ってきた。それによって個人をターゲットにした効果的な商品広告が打てるようになり、商品の提供者から高い金をとる。それが一方では懸念にもつながる。グーグルの検索履歴やFBでの発信内容から個人の傾向・嗜好が丸裸になり、それが選挙など他の目的に利用されかねないことである。FBでは、「150回の“いいね”であなたは丸裸になる」とさえ言われるが、こうした個人情報の扱いに対する国家の規制は思うように進んでいない。
◆金儲けが第一、創業者の性格、天才の社員たち
様々な懸念が指摘されてはいるが、 GAFAが考えるのは唯一、金儲けのことである(ギャロウェイ教授)。それも当然で、彼らに莫大なカネを投資する人たちは、いずれ高額な見返りを期待しているわけで、GAFAが労働者保護や、(監視費用が発生する)メディアとしての責任、地域産業の保護などに少しでも金を使うことを嫌うだろうから。それが資本の論理だ。しかも創業者たちは企業の中で絶対的な権力を有しており、彼らの攻撃的で資本主義的な性格を変えることは不可能。教授はFBのザッカーバーグを「世界で最も危険な人物」とさえ言う。
では、GAFAに代わる巨人が生まれる可能性はあるのか。中国のアリババなど、幾つかの候補は挙げられているが、それぞれに限界がある。むしろGAFAの中で競争が激しくなっていくだろうと言う。初めて1兆ドル企業に達するのは恐らくアマゾンではないかとも。翻って日本の企業を考えると、GAFAははるか彼方に行っていて、とても追いつくのは無理に見える。何しろ、FBもグーグルも社員には天才しか採らないし、世界中から集まるグーグルの6万人の天才が、日々資本の論理に駆られて新たな金儲けのアイデアを練っているのだから、(リスクを取ろうとしない日本企業はもちろん)誰もそれに追いつくことは出来ない。
◆巨大IT規制。国は効果的な手が打てるか
以上、GAFAの浸透は単に生活が便利になったと喜んでばかりもいられない面がある。先月、山形県で唯一の百貨店が倒産し、190人の従業員が解雇されたが、これなども一つにはネットでの買い物など、購買形態の変化が影響しているのだろう。日本でもEUに習って、個人情報の囲い込みや出店側への高圧的な要求などに関して、(楽天も含めた)規制の検討が始まっているが、まだ模索中だ(12/18毎日)。この先、各国は資本の論理に凝り固まった巨大IT企業を、社会に適合した形に変えて行けるのか。これについては別途また考えて行きたい。
*1)NHKが持つ豊富なコンテンツを生かして、アクセス数で日本最大のサイトを目指すという案。首脳部はOKだったが、民放や新聞の団体である新聞協会から反対され、ネットサービスは番組の二次的な広報に限定するという、ごくささやかな案になった。
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