日々のコラム <コラム一覧>

一人の市民として、時代に向き合いながらより良く生きていくために、考えるべきテーマを日々取り上げて行きます。

コロナショックを生き抜く 20.3.25

 新型コロナウイルスの感染拡大の影響が世界中に広がっている。そんな切迫した状況で日本では、果たして政府の対策は適切なのか、政治家と専門家の間で認識は共有できているのか、第一線で事に当たる医療機関の体勢は十分なのか、各自治体はどのような体制を組んで独自の取り組みに備えているのかなど、様々な疑問と不安が広がっている。昼のワイドショーなども現場を知らないタレントがあれこれ言うばかりで知りたい情報が少ない。責任担当の首相も加藤厚労相も説明が曖昧で、質問に十分に答えないから余計に疑心暗鬼が募る。

◆Nスペ「パンデミックとの闘い」
 そんな中、Nスペ「パンデミックとの闘い」(3月22日放送)は、さすがにしっかりと作られていた。こうした国家的危機の場合に大事なのは、まずは指揮命令系統がどうなっているか、どういう人・組織・体制でやっているのか、という顔が見える情報である。今回は、厚労省内部に設けられた、およそ30人の専門家で構成される対策実行チーム「クラスター対策室」に初めてカメラを入れた。司令塔の押谷仁(東北大教授)たちの不眠不休の対応を取材しながら、専門家の強い危機感を伝えていた。多分、これが今の日本の現実なのだと思う。

 今の日本は、辛うじて感染爆発(オーバーシュート)を免れているが、それは単なる幸運に過ぎない。いつ感染爆発に移行してもおかしくない状況だという。対策班の顔が見え、司令塔の押谷教授が非常な危機感を持ってやっている状況が分かっただけでも、Nスペの意義はあったと思う。しかし、原発事故の時もそうだったが、これだけ大事なことをやっているのに、その組織環境のあまりのお粗末さである。いかにも間に合わせの机といすの狭い部屋。こういう時の後方支援(ロジスティック)の考え方が、日本の組織には圧倒的に足りない。  

 皆、不眠不休で明らかに消耗していて、この先大丈夫かと心配になるが、後方支援に当たる官僚たちにもその意識が欠如しているのだろう。専門家の一人も言っていたが、新型コロナウイルスは従来のウイルスと異質の特徴を持っているので、私たちの生活を劇的に変容させないと抑えきれない。欧米のような感染爆発を防ぐために、政治家や国民はどれだけ社会の劇的変容を受け入れる覚悟があるのか。どれだけの期間、その影響に耐えられるのか。このコロナショックを生き抜くために、現時点で見えて来た範囲で課題と問題点を整理してみたい。 

◆謎のウイルスの生存戦略。長期化する押さえ込み
 このウイルスがどこで、どのようにして発生したのかは様々な憶測があるが、謎のまま終わりそうだ。しかし、従来のものとはかなり異質な特徴を持った謎のウイルスであることは間違いない。一つは感染しても症状が出るまで4〜5日もかかること、しかも多くは無症状で過ぎてしまうために、その間、ウイルスは人に気づかれずに次々と感染の範囲を広げていく。ウイルスの方からすれば実に効果的な生存戦略で、(素人考えだが)野生のコウモリなどに寄生していたウイルスが、人間を宿主とするべく変異したのではないかとさえ思える巧妙さである。

 宿主を出来るだけ殺さずに静かに生存の範囲を広げていく戦略だが、人間の方から言えば、無症状の感染者を見つけて隔離するのが難しい極めて厄介な存在になる。しかも、感染者の8割は無症状ないし軽症だが、2割は重症化し、特に高齢者の致死率(80代で15%)が高い。この先、試験中の在来薬の適用で何とか致死率を抑えられたとしても、感染は国民にワクチンが行き渡るまでぐずぐずと長引きそうだ。仮に感染爆発が抑えられたとしても、気が抜けない状況がこの先、1年半〜2年は続くのではないか。そうなると、オリンピックの一年延期も微妙になる。

◆感染爆発を起こさずに持ちこたえる「レベルA」の作戦とは
 この厄介なウイルスと闘うために、押谷教授たちは、まずは何としても感染爆発を防ぐことに重点を置く。そのために、クラスター(集団感染)の周辺をPCR検査してつながりを潰し、感染爆発を押さえ込んでワクチンまでの時間を稼ぐ。もっとPCR検査をと言う声もあるが、クラスター潰しのための検査としては十分に機能していると言う。逆に、無症状の人たちにも検査の範囲を広げると、重症化した人への医療が足りなくなるという意見だ。重症患者を救うこうした作戦内容については、国民にさらに丁寧に説明する必要がありそうだ。

 思うに、肺炎などの症状が出やすい高齢者は、その周辺にウイルスの存在を知らせる「炭鉱のカナリヤ」のようなものだ。それをいち早くキャッチして高齢者の命を救うと同時に、感染ルートを追跡して軽症者も含めてクラスターを隔離する。現状の医療体制ではこれが最良の方法だとしているが、この戦術が可能なのは国民全般に正確な危機感が共有されて、感染者の発生が一定程度に抑えられる場合である。危機感が緩んで、感染ルートが分からない患者が急増すれば、この方法では間に合わなくなる。専門家たちの深刻な懸念はここにある。

◆若年層も「レベルB」の危機感を共有できるか
 仮に、感染者の発生が一定程度に抑えられ、持ちこたえている状況を「レベルA」とすると、「レベルA」が続く場合、どうしても楽観論が浮上し気が緩みがちになる。政治家はこうした声に敏感だから、必要な政治決断を躊躇するようになる。専門家と政治家の間に危機感の乖離が生まれると、待っているのは感染爆発の「レベルB」になる。死者の急増はもちろん、最悪の場合は武漢やNYのように都市封鎖(ロックダウン)も必要になる。そこには1千万都市における、(食料も含めた)生活手段の確保、莫大な経済的損失、困窮する社会的弱者、医療崩壊などの「想像を超える困難」が待ち受けている。

 各国の現状を見れば、この恐ろしい「レベルB」は日本でも目前に迫っていると言っていい。こうなるとその影響は、感染しても大丈夫などと思っている若年層をも直撃する。従って、「レベルB」への移行をなんとしても避けるために、若年層にも自覚をもって貰って率先して感染押さえ込みに協力して貰わなければならない。それは高齢者を救うだけでなく、若年層も含めた社会全体を救うための必須条件になるからだ。政治は今、「レベルB」への移行を食い止めるために、まず「レベルA」の痛みを分かち合う重要性を、率直に国民に語りかける必要がある。

◆責任者の顔が見える徹底的な情報公開を
 その点で学ぶべきは、Nスペで紹介された台湾の例だ。台湾では感染症対策の指揮官(陳時中)は毎日記者会見を行い、時には2時間もかけてすべての質問に答えている。人々の気持ちを一致団結させるには、何より情報公開を行って市民に安心感を与えることだという。日本も指揮官(スポークスマン)として誰が適任かを吟味して是非、徹底的な情報公開に努めて貰いたいと思う。

 その情報とは、「レベルB」に移行させないために、日本は現時点で何が必要になってくるのか。「密閉、密集、密接の3つの密」を避けるという抽象的なことだけでなく、具体的にイベントをどうするのか、電車通勤対策をどうするのか、学校はどうするのか、医療体制や社会的弱者への救済策をどうするのか。そして、その対策が半年、一年続いた場合の痛みを国民でどう分かち合うか。国民の生活を確保するために、どのような経済活動なら可能なのか。国民を一致団結させるには、こうした課題を研究し、情報を隠さず丁寧に伝えていく必要がある。

 Nスペの押谷教授は、日本が辛うじて「レベルA」に止まっているのは、保健所、感染症研究所、地方自治体、地方の衛生研究所、若手の研究者が不眠不休で頑張っているからだと言う。であるなら、メディアはこうした機関の連携や指揮命令系統に関する構図と、「顔の見える現場情報」をもっと伝えて貰いたい。オリンピック延期の話題に目が行きがちだが、それはゆっくり考えればいい。まずは、当面の目標である「レベルA」の状態をいかに保ちながら時間を稼ぎつつウイルスを押さえ込むのか。そのための徹底的な情報共有が重要になると思う。

安倍政治の「失われた8年」 20.3.10

 東日本大震災と福島原発事故から9年。今年8年目に入った安倍政権は、その震災後の政治の大部分を担ってきたことになる。この8年、政権は「福島の復興なくして、日本の再生なし」と折に触れて言って来たが、遅々として進まない汚染地域の帰還・復興にしろ、困難に直面している廃炉や汚染水問題にしろ、政治が目立った指導力を発揮することはなかった。特に福島以後の世界(西欧)は、原発から再生可能エネルギーに舵を切っているのに、日本は相変わらず出口のない原発再稼働と核燃料サイクルに固執して、新たな道に踏み出せずにいる。

◆「失われた8年」の間に、先送りにされた政治の重要課題
 むしろこの8年、政権でますます目立って来ているのは、先日の新型コロナウイルスでの記者会見の時もそうだったが、官邸の官僚が書いた内実が伴わない作文を読み上げながら、自身も何かやっている感になって高揚するという、上滑りの政治である。「三本の矢」、「拉致問題解決」、「1億総活躍」、「女性活躍」、「地方創生」、「人づくり革命」と言った聞こえのいいキャッチフレーズを乱発しながら、支持率と権力維持に腐心する。その上で恣意的に解散を打って一強状態を作り、民主主義の根元を腐らす「何でもありの政治」を続けて来た。

 公文書を書き換えさせる(森友問題)。公文書を破棄させる(桜を見る会)。政権幹部に近い議員の選挙違反やカジノ汚職に無反応を決め込む。或いは、森友・加計問題を裏から指揮し、関係者を不起訴にして政権に恩を売った黒川弘努検事長を次期検事総長に昇格させるために、異例の定年延長を図る。内閣が吹き飛ぶようなスキャンダルが次々と起きても、一強状態にあぐらをかいてまともに答えない。こうした政治の腐敗と空洞化が日常茶飯事になって国民が呆れている間に、真に取り組むべき重要課題が先送りにされて来た

 この8年の間に先延ばしにされた政治の重要課題は、近い将来、安倍政権が(どんな形にせよ)終わりを告げた時に、日本にとっても次期政権にとっても、大きな「負の遺産」にならざるを得ない。それは、いわば「安倍政治の失われた8年」が生んだツケでもある。今回の新型コロナウイルス危機でも、初動の遅れを批判された安倍は、慌てて「やっている感」を作って支持率キープに躍起だが、どれだけ科学的根拠に基づいて現実を直視しているのか。その成否を占う意味でも、政治の主な重要課題が先送りにされてきた「失われた8年」の意味を考えて見たい。

◆莫大な借金を積み上げたアベノミクス
 安倍政権は「経済再生なくして財政健全化なし」と言いながら、経済成長を図るために、異次元の金融緩和と財政出動の2本立てで何百兆円という金を市場につぎ込んできた。しかし、8年経っても金融緩和の目標(2%のインフレ率、2%の経済成長)は達成できず、却って莫大な借金(国債発行残高)を積み上げてきた。政権発足時には700兆円ほどだった国の借金は、現時点で1千兆円を超えている。この2年ほどは予算も連続して100兆円を超え(2020年度は102.6兆円)、そのうち税収は60兆円強なので、単年度の借金だけでも37兆円になる。

 政府は、(借金をこれ以上増やさないために)年度予算の黒字化(財政健全化)を目指してきたが、予定は次々と先延ばしされている。名目成長率3%と誰が見ても実現が困難な数字を前提にしても、黒字化は2027年度だと言う。その一方で、国家予算は無責任な青天井状態。100兆円超えの大盤振る舞いで、国の財政は健全化からどんどんかけ離れている。株価の方も、政府関連資金(年金、日銀)を投入して株高を演出するなど、アベノミクスの実体はGDPの200%を超える国の借金などで粉飾されて来たと言っても過言ではない。 

 このように、辛うじてプラス成長を保っている日本経済も、その内実は異次元の金融緩和と借金による財政出動によって支えられている、見かけ倒しの脆弱なものである。今回の新型コロナショックが、このアベノミクスの脆弱性を直撃した時、日本経済がどうなるのか。これまで国の借金はいくらあっても大丈夫だなどと言っていた人々の言説も、たちまち怪しくなりそうな気配だ。仮にそうならなくとも、安倍政権によって放置されてきた莫大な国の借金は、日本経済の脆弱性として次期政権に引き継がれ、深刻な「負の遺産」になる。

◆原発と石油にこだわって、温暖化対策に乗り遅れる
 国民に巨額の負担を強いながら、この8年、適切な政治決断がなかったのが原発問題である。2018年に閣議決定された第5次エネルギー基本計画での原発比率は2030年で20〜22%となっているが、現時点での日本の原発比率は僅か2%程度。計画達成のためには、40年超えの老朽原発を含めて30基程度、再稼働する必要があるが、震災後9年経っても再稼働したのは9基に止まる。それもテロ対策の不備を指摘されて、今年中に4基が再び停止に追い込まれる。

 計画は誰が見ても「絵に描いた餅」なのに、原子力ムラ(政財官学の利権集団)は原発を諦められずに、毎年巨額の原発維持費と、5.3兆円に上る安全対策費をつぎ込んでいる。そうした費用はすべて国民の負担に上乗せされる。その上、再処理工場の完成も見通せず、膨大な使用済み燃料の行き場がない。基本計画には、原発ありきの発想から抜け出られない官僚たちの空虚な作文が並ぶが、田中俊一(前原子力規制委員長)でさえ、「原発はいずれ消滅します」と言う「八方塞がり」の状況。政治の無策で原子力は確実に負の遺産になりつつある。

 政治が原発にこだわっている間に出遅れたのが、(温暖化防止の切り札となる)再生可能エネルギーである。風力発電でも太陽光発電でも、日本は今や技術的に先進国の周回遅れになっていて、風力発電の生産からも撤退を決めた。現在、日本では石炭火力が33%。それが温暖化防止に前向きな世界から批判にさらされている。昨年12月のCOP25(スペイン)で石炭火力の増設や輸出にこだわる日本は、「化石中毒」とまで言われる始末だった。安倍政権の8年に、既存の政策から抜け出られない日本は、ここでも世界から取り残されようとしている。

◆なぜ、重要課題を先送りにするのか
 安倍政権によって先送りにされた政治の重要課題はこの他にも、少子化による人口減少、その背景にある格差と再分配政策、予算削減による科学技術力の低下などがあるが、安倍はなぜこうした課題に果断かつ有効に取り組めないで来たのか。幾つか要因はあると思うが、一つには既存の利益集団を重視して、成長の幻影を追って来たこと。先送りのぬるま湯に浸って客観的な現実を直視せず、古い発想を転換出来なかったこと。また権力維持のために、身の回りを「安倍ファースト」の議員と官僚で固め、真のブレーンを集めてこなかったこともあるだろう。

 そして何より大きいのは、政治の停滞と腐敗を招いた安倍の資質である。先日のBS1スペシャルで渡邊恒雄(読売主筆)が中曽根元首相について言っていたが、自己研鑽に努め、自分がやるべきこと(国鉄、電電公社などの民営化)を研究し、ブレーンを集めてやりきった強い意志である。安倍が唱える憲法改正もここまで来ると、彼の支持母体(右翼陣営)をつなぎ止めるお題目にしか見えない。安倍は「私の後をやる人は大変だ」などと脳天気に言っているそうだが、彼が残したのは、むしろ「失われた8年」による「負の遺産」なのではないか。

◆コロナショックの先に何が見えるか
 その安倍の後を誰が担うのか分からないが、こうした「負の遺産」を処理するには、政治家として余程の智恵と決断力が必要になる。今の日本に、そうした政党、政治家が残っているか。政治家を支え、時代を転換させるような頭脳集団はいるのか。今回の新型コロナショックの先になるだろうが、この危機を何とか乗り越えた時に、新しい政治の可能性がぼんやりとでも見えてくるのを期待するしかない。

高齢社会を直撃する新型肺炎 20.2.28

 新型コロナウィルスで中国武漢市が封鎖されたのは、1月23日その前に武漢から500万人が脱出して中国各地に散らばってしまった。翌日24日から30日までが、民族の大移動と言われる春節だったが、その前後に武漢からもおよそ1万8千人の中国観光客が日本を訪れたと言う。その中には(チャーター機で帰国した人たちの1.5%の割合で感染者が出たことからすると)270人程度の感染者がいたと推測され(*1)、これが日本各地でウィルスを拡散させたものと思われる。

◆後手の対応と突然の方針転換
 その後、日本政府は中国各地の感染情報を見て、湖北省、浙江省と泥縄式に入国制限地域を拡大したが、問題のダイアモンドプリンセス号からの杜撰きわまる解放も含めて、水際作戦は失敗した。今の日本は感染ルートが特定できない二次感染、三次感染の段階に入っている。政府の初動体制が甘かったわけである。この状況を受けて24日、国の専門家会議は「見解」を発表、現在は国内の感染が急速に拡大しかねない状況にあり、これから1〜2週間が、急速な拡大に向かうか、収束できるかの瀬戸際になるとした。 

 これを受けて政府は25日、(加藤厚労相が)対策基本方針を発表したが、その内容は抽象的で曖昧。この1〜2週間が瀬戸際という割には、地方自治体、病院施設、教育機関ほかに対応と判断を丸投げする官僚的なものだった。25日の報道ステーションで後藤キャスターも、「北朝鮮のミサイルの時は国難と言って解散までしたのに」と、安倍政権の腰が引けた取り組みを批判していた。こうした批判を気にしたのか、安倍はここへ来て急きょ国内イベントの自粛要請、学校の休校などに踏み切ったが、突然の方針転換に戸惑いと混乱が広がっている。

◆日本は危機対応が苦手なのか
 一方のアメリカでは、トランプ大統領が27日午前(日本時間)に記者会見し、ペンス副大統領を責任者にして対策本部を設け、アメリカ厚生省やCDC=疾病対策センターなどの関係機関が連携して、コロナウィルス押さえ込みに政権を挙げて取り組むと表明。対策費として25億ドル(2700億円)規模の緊急の予算措置を行う、「議会がもっと出すというなら必要なだけ使う」と述べた。対して日本は予備費から135億円と、事態の捉え方が大きく違っている。海外メディア(ロイター)からは、「安倍はどこだ?」と影の薄さを揶揄されていた。

 日本は平和ぼけしていて非常時の対応が苦手なのか。今回の新型肺炎に関しても、情報の出し方、検査態勢、患者の受け入れ体勢、そして肝心の危機管理体制の構築に関して、9年前の原発事故の初期と同じような混乱が起きているように見える(*2)。原発事故も深刻だったが、今回の新型肺炎はウィルスの性質上、特に(高齢者の殆どが何らかの持病がある)日本の超高齢化社会を直撃する可能性がある。政府は、この重大性に気づいているのだろうか。状況は日々変化しているが、現時点での情報をせき止めながら、問題の幾つかを考えてみたい。

◆出遅れたウィルス検査体勢の問題
 特に問題なのは、ウィルス検査キット(PCR)の圧倒的不足である。25日放送の「報道1930」(BSTBS)でもこの点を厳しく指摘していた。検査キットの緊急承認によって1日2万5千件の検査が可能になった韓国では、既に4万件を超える検査を実施したのに対して、日本はたったの1700件に過ぎない。検査キットの数も検査施設の人手も足りない状況に陥っていて、医師が受けさせたいと思っても保健所が断るケースが出ている。当初の「中国しばり」(検査を中国からの渡航者に限る)から抜け出られずに出遅れている。

 上昌広(医療ガバナンス研究所理事長)は番組の中で、「1ヶ月前から言っているのに、やる気がなかったのだろう」と政府の怠慢を指摘していたが、このPCR検査に関しては、専門家の間で色々議論がある。一つは検査精度の問題で、感染者でない一部の人まで陽性に出る可能性があること。症状が出ていない人までを検査対象にすると、陽性と判定された人で医療施設が満杯になることなどである。もっともらしい意見だが、感染ルートが特定できない患者が増えてきた現在では、潜在感染者を見逃す怠慢は許されるものではない。特に80歳台の女性患者のように、亡くなった後で陽性が分かったというのは怠慢でしかない。

◆限られた検査を有効に。戦略的な思考を
 検査の体勢作りでも重要なことがある。一つは、新型肺炎は重症化すると(人工呼吸器など)打つ手が限られてくるので、早期発見、早期治療が大事になる(上昌広)。つまり、重症化する手前で入院加療をする必要がある。そのためにどうするか。新たな検査基準を設けて、症状が出ている患者を優先して検査を受けやすくすることである。ここに来て厚労省は世論に押される形で、検査キットと検査体勢を増強するとしているが、「中国縛り」などを引きずらずに、情勢の変化に応じた体勢を早急に作るべきだった。

 もう一つ検査でやっかいなのは、症状が出ていない感染者である。検査の網を広くかけようとしている韓国と違って、検査体勢が出遅れている日本では、この人たちは無自覚のまま保菌者(感染拡大者)になる。従って、日本では急速拡大は抑えられたとしても、感染がいつまでも収束しない恐れがある。これに対しては、疑いのあるクラスター(集団)を優先的に検査して補足する。或いは、高齢者の集団感染を防ぐために、老人施設、デイサービス、老人病院などで働くスタッフを優先して検査するなど、「戦略的な検査」を検討する必要があると思われる。

◆楽観論を超えて。もっと具体的で親切な情報を
 さらに言えば、これから感染者が増えて行った場合。始めは在宅で様子を見るにせよ、重症化する手前で入院させる体勢を急ぐべきである。こうした患者の受け入れ体勢が全国各地でどうなっているのか。また、いざ入院と言う時に、移動手段がない人はどのようにして病院に行けばいいのか。そういう具体的な情報が殆どない。これについては、「佐々木淳医師のFBサイト」が翻訳したアメリカCDC(疾病対策センター)の情報の方が余程親切だ。国に予算が削られてきた国立感染症研究所も気の毒だが、見習うべきだろう。

 武漢が封鎖されてから1ヶ月以上。中国から多くの人が来ると分かっていて、水際作戦は何故失敗したのか。またその後、検査体勢の強化を含め、どうして対策が後手に回ったのか。そこには、「観光地への打撃を気にした。オリンピックを控えて余り大げさにしたくない。初動の失敗を隠すために、なかなか政策転換ができなかった。或いは、新型コロナウィルスも大方は軽い症状で治るのだから、検査を拡大して軽度の人まで医療機関に押し寄せたら大変だ」といった無意味な楽観論や迷いがあったに違いない。

◆高齢者を直撃する新型肺炎。的確な危機管理を
 しかし、上にも書いたように新型肺炎は特に高齢化が進む日本に深刻な事態を招きかねない。何しろ、昼間スーパーなどで見かける相当高齢の人たちはその殆どが何らかの持病があるように見える。佐々木淳医師によれば、新型肺炎の致死率は全体では数%だが、感染者の20%が重症化(肺炎)し、武漢のデータでは80代の14%位が死亡している。新型肺炎は特に高齢者を直撃する病気なのだ。

 ここへ来て、安倍は汚名返上とばかりに対策を急いでいるが、しっかりした専門スタッフを集めた危機管理体制を敷いてやっているのか。「風の日めくり」(2.22)の最後にも書いたが、新型肺炎は世界経済にとって「予期せぬ厄災(ブラックスワン)」になるかも知れない。そうしないためにも現政権に頑張って貰うしかないが、「安倍ファースト」の大臣(厚労相、文科相)とイエスマンの官邸官僚で周りを固めた安倍にそれが出来るか、心配ではある。メディアの的確な叱咤激励が望まれる。
*1)「世に倦む日々」(2.14)
*2)9年前に原発事故が起きたとき、私は事故直後のコラムで「もっと情報を」、「最悪のケースを想定して危機感を持て」、「顔が見える非常時の指揮官を」、「統合対策本部の機能強化と明確な指揮命令系統を」などという見出しで書いたが、それは、今回の新型肺炎の場合にもそっくり当てはまる気がする。

格差の拡大に手が打てるか 20.2.15

 アメリカ大統領選挙の民主党候補を決める予備選で、バーニー・サンダースが若者層の熱狂的な支持を集めている。その民主社会主義的な主張については、彼の自伝をもとに「サンダースが闘ったアメリカ」(18.7.26)に書いたが、今度の選挙でも、国民皆保険や大学の無償化などを訴えている。支持の背景にあるのは、現在のアメリカに広がる深刻な格差だ。いろいろ数字があって悩むが、納税者のトップ0.1%(17万世帯)の資産が、下位90%(1億1千万世帯)の総資産に匹敵するという超格差状態である。しかも、この格差は年々拡大している。

◆暴走する資本主義の弊害は抑えられるか
 巨大IT企業やそれに投資する国際金融資本が利益の総取りに走る中で、富はこれらを経営する超富裕層(スーパーリッチ)に際限なく集中し(*)、しかも彼らの資産は極めて税が低いタックスヘイブン(租税回避地)に隠れていて、税の補足が難しい。GAFAの創業者たちが富を積み上げる一方で、既存の産業で働いていた中産階級が職を失って貧困化すれば、全体の購買力が低下しGAFAは自分で自分の首を絞めることになる。*)「GAFAが世界を制覇する日」(20.2.3) 

 資産14兆円で世界トップになったジェフ・ベゾス(アマゾン創業者)は、そのことに鋭く気づいていて、「最低限所得保障制度(ベーシックインカム)を採用すべきだ」などと言っているが、自分たちが雇用破壊をしているとか、税金逃れをしているとかは一切言わない。ギャロウェイNY大教授は、「おそらく私たちの社会は、中産階級を維持する方法を見つけなければならいということを諦めてしまったのだ」と嘆くが、GAFAだけでなく、グローバル化した金融資本も、世界各国で同じような富の集中と、格差拡大(貧困)をもたらしている。

 彼らは、世界のあらゆる事象を金儲けの対象にする。その額はタックスヘイブンがらみで3300兆円、為替取引に使われる資金だけで1日580兆円に上る(*)。この巨額な「資本の暴走」が、世界中に格差拡大や地球環境の収奪をもたらしているのだが、これは日本も無縁ではない。後で見るように日本でも中産階級がやせ細って貧富の差が拡大しているが、既成政党の中からはなかなか声が上がらないのが現状だ。日本は果たして、「資本の暴走」がもたらすこうした弊害に、有効な手を打てるのだろうか。*)「世界を食い荒らす強欲経済」16.6.15

◆格差拡大の原因の一つ、「企業ファースト」
 格差の拡大と中間層のやせ細りについては、日本でも様々な報告がされている。小栗崇資(たかし、駒澤大教授)は、企業で増え続ける内部留保が、雇用者に回っていない実態を指摘する(朝日19.9.25)。2011年から17年の間に、資本金10億以上の5千社では売上高は10%しか増えていないのに、内部留保は85兆円から216兆円(155%増)へと急増している。その内部留保の増加分(132兆円)がどこから生まれたかというと、殆どは人件費の引き下げ分(77兆円)と、法人税の減税分(39兆円)だというのだ。

 つまり企業は、消費税増税と引き換えに国が実施した法人税減税に加えて、非正規雇用を増やして人件費を削り、それを内部留保としてせっせと溜め込んできたのである。しかも、それは有効利用されていない。設備投資や研究開発には回らずに、金融投資や子会社の株取得、海外への直接投資(その多くはタックスヘイブン)などに向かうだけだ。小栗は、日本だけが人件費削減→消費冷え込み→国内市場の縮小→内部留保の海外投資へ→国内がさらに縮小という「負の循環」に陥っていると言う。日本の「企業ファースト」の政策が逆に経済を停滞させ、中間層の貧困化とやせ細りを招いている。

◆「企業ファースト」から「家計ファースト」へ
 この「負の循環」を断ち切るために、小栗は内部留保を賃上げや正規雇用化、研究投資などに回すべきだとし、そのためには内部留保への課税や法人税減税の見直しも検討すべきだと言う。法人税は、安倍政権になってから39.5%から23.2%へと大幅に減税されて来た。しかも、資本金100億円以上になるとあれやこれやの優遇策で、法人税が8%〜11%まで低下している(*)。内部留保の実態がここまで露わになると、その提言も当然で、富の再配分と言うよりは適正配分と言うべきだろう。*)「絶対利権は絶対に腐敗する」19.10.20

 一方、経済アナリストの中前忠は、この20年、家計の所得が抑えられてきたことが、景気低迷の原因だとする(「家計ファーストの経済学」)。2016年の家計所得はピーク時(1995年)に比べて13%も減っている。日本は企業の利益を優先して、「家計をいじめてきた」(中前)わけだが、この傾向は米、独、日3カ国の中でも日本が最大だという。従って、経済を活性化するためには、これまでの「企業ファースト」の政策を、家計に利益を回す「家計ファースト」に変え、中間層の購買力を上げてGDPの6割を占める個人消費を伸ばす必要があるとする。 

◆その他、富裕層への増税、消費税廃止など
 この他にも、格差是正の財源としては様々なことが考えられている。アメリカ大統領候補のウォーレン議員(民主党左派)が主張するのは、富裕税の導入だ。これは資産54億円以上のスーパーリッチ(7万5千世帯)に2〜3%の税金を課すというもので、10年間で330兆円の税収を見込むというものだ。日本の場合も所得税の推移で見ると、最高税率75%の時代(1974〜1984年)から徐々に下がって、現在は最高で45%だ。加えて、金融所得は一律に20%となっており、これも併せると一頃に比べて、随分と富裕層への優遇が進んでいると言える。

 こうしたことを踏まえて、日本でも富裕層への増税を検討すべきという意見が専門家から出ているが、スーパーリッチが欧米に比べて少ないため議論は低調という(毎日19.11.9)。あるいは山本太郎(れいわ新撰組)や中前忠のように、消費税を廃止して消費を活性化させるべきだという意見もある。一律10%の消費税は、富裕層には軽く、貧困層には重い税金なので、もし廃止されれば貧困層の方がその恩恵をより大きく受けるからだ。山本も中前も消費税廃止の財源として、法人税増税や富裕層への増税(累進課税の見直し)を上げている。

◆財源をどう使うか。政治のメスは入れられるか
 以上、格差是正のための財源はかなり絞られて来たが、問題はこうした財源をどう使うかということである。消費税廃止の他にも、例えば全世帯一律に一定の額を生活費として配る「ベーシックインカム」という方法がある。これはすでに、世界の幾つかの地域で試みられているが、将来、人工知能(AI)によって労働者の働き場所がなくなって行くことを考えれば、こうした実験が大事になるかも知れない。しかしその前に、私が一番共感するのは、井出英作(慶応大教授)たちが提唱する案である(「分断社会を終わらせる」)。

 それは、国民が人生の各段階で等しく必要とする、教育や医療、育児・保育、養老・介護といった基本ニーズに対して、国民誰もが平等に現物給付を保証される(つまりタダになる)という「共存型再配分」という方式である。国民誰もが平等に必要な現物給付を受けると言うことは、高所得層には低率だが、低所得層の人に対しては高い割合の「再分配」となって、格差の是正にもつながる。しかも、社会全体で支え合うという「共生」の考え方として、国民各層に受け入れられやすいという利点もある(「格差と分断から共生の社会へ」16.7.3)。

 問題は政治だが、政治は一部の富裕層に富が偏る「資本の暴走」の弊害にメスを入れられるか。アメリカのみならず、格差問題がこれだけ社会の大問題になった現在、格差是正に取り組み、国民中間層を復活させることは、民主主義国家の重要課題になりつつある。日本の政治家、政党も時代の要請をどれだけ敏感に受け止めて、具体的な政策を実行に移せるか。政治の可能性がそれによって決まる時代になったと言える。