晴れ間のない梅雨空が続いている。孫2人を連れて娘が我が家を引き上げてから早くも2ヶ月が過ぎた。こちらは普段の生活に戻っているが、カミさんの不調は相変わらずで医者通いを続けている。これではいけないとジム通いを勧めたが、何とか8月上旬に予定している東北三大夜祭りのツアーに向けて体力を取り戻して貰いたいと思っている。そんな6月から7月にかけての生活を、「話す、聞く、見る、かく」をキーワードに振り返っておきたい。
◆話す楽しみ
話すと言えば、娘の長女は間もなく生後4ヶ月になるが、送って来た動画を見ると、しきりに「アウアウ」を言うようになった。それも口の開け方をいろいろ変えながら、何かを話しているつもりなのが可笑しい。毎夕食時は兄のK君とLineの動画で会話をするが、「いくつになった?」と聞くと「2歳10ヶ月」などと、ちょっと会わない間に少し大人になった感じがする。カミさんはまだ大変だからと言っているが、娘は月末に2人を連れて泊まりに来ると言っている。カミさんには悪いが、会えるのが楽しみである。
某日。いつもの高校時代の同級生に先輩を交えた4人組で日光の温泉に出かけた。行きの電車の中から3時にホテルに着いても、そして夕食までの時間もずっと話していた。さらに夕食の2時間と部屋に戻ってからの2時間。この日は、7時間以上も話して過ごした。よく話すことがあるなあと思うが、いつものことである。映画監督の友人の来年秋公開の「峠」という映画について、そして次回作のシナリオについて。今時のメディア論に歴史問題、互いの健康状態や昔に離婚した友人の家族問題、やがて来る死に対する考え方についてなどなど。温泉に入ったのは夜も更けた10時過ぎだった。
話すことはいくらでもある。実年齢70有余年にわたる共通の時代感覚と生育環境(故郷)をベースにしているだけに、大きく言えば、互いの人生観、世界観から死生観にまでわたる話が心に響くのだ。翌日には、改装なった東照宮を見てから大谷川沿いに1時間ほど歩いて、憾満(かんまん)ヶ淵の並び地蔵を訪ねた。木漏れ日の中、およそ70体のお地蔵さんが並んでいる。監督は「時代劇のいいロケハンが出来た」と喜んでいた。その後、電車の時間まで喫茶店でまたおしゃべり。爺さんたちの小旅行は会話を楽しむ旅でもある。
某日。NHKのアナウンサーだったS君の家に集まってネットテレビの収録。こちらの4人組は、NHKの仲間で東武伊勢崎線(現在のスカイツリーライン)沿線の4人が浅草や北千住で飲み始めた仲間で、すでに30年ほど続いている。温泉にも行く。今回は1人が欠席したが代わりにS君の知人の女性タレントが参加した。S君が最近の出来事について考えたことをパネルにし、カメラに向かって自説を展開する。それを我々3人が、カメラの背後から何だかんだと茶々を入れる仕組みだ。彼が用意した手料理と酒を楽しみながらの気楽な収録である。
今回は、高齢ドライバーが起こした最近の事故をきっかけに、S君が考えた歩行者を守る設備のアイデアなどについて。これまでには、温暖化で発生する台風を小さくしてしまう話から、飛行機事故を防ぐために客室全体にパラシュートをつけてしまうアイデアまで彼の奇想天外な発想に、陰の3人が容赦ない突っ込みを入れ、これらのやりとりを短く編集してYouTubeにあげる。このネットテレビの試みは去年の秋からだが、酒の方が楽しくて路線が定まらず、S君の強い思い入れにも関わらず、まだ軌道に乗れていないのが残念ではある。
◆若い人たちと話す楽しみ
某日。定年後に通った政府系研究機関の仕事仲間だった若い2人と。2人とも正規の職員ではないだけに、今のお役所仕事の駄目さ加減さをよく見ている。日本の独創的な科学研究を育てていくために、本当に必要なところにお金(税金)は届いているのか。組織内で働く役所の人々がどこを見ながら仕事をしているのか。組織論理の中でただ遊泳しているだけではないのかなど、冷徹に見ていることに感心する。そんな組織の中で6年間、お役所的な無理解に耐えながら一緒にクリエイティブな仕事をしたことが、今のお付き合いにつながっている。
某日。後輩の現役のプロデューサーたち4人との食事会。いつも幹事役をしてくれるF君のおかげで年に何度か、第一線で活躍している人たちと話が出来ている。今回お願いしたのは少し静かな場所でということ。歳をとってくると、周囲の雑音の中で会話をすることがかなり疲れるようになったからだ。原発番組の担当者と話すことも多いが、今回は別の顔ぶれ。番組現場での働き方改革、科学ジャーナリズム、健康番組の可能性、地球の持続可能性を考えるSDGsなどについて、かなり密度の濃い話し合いができたと思う。幹事役のF君に感謝である。
この他に、昔、「夢用絵の具」という番組で一緒に苦労した仲間との会食、先日亡くなったT君を偲んで彼の同期2人との会食、今年92歳の大先輩のGHQ占領時代のNHKの話など、それぞれ心に残る会話があった。
◆聞く楽しみ、見(観)る楽しみ
聞く楽しみと言えば勉強会だろうか。会員になっている科学技術ジャーナリスト会議の月例研究会。6月は地球の持続可能性について17の目標を設定して解決を目指す国連のSDGsについて、7月はネットジャーナリズムについて、それぞれの専門家を招いての講演だった。必ずしも腑に落ちることばかりではなく質問もするようにしているが、いずれも考えるきっかけを与えてくれる点でありがたい。もう一つは今年87歳になる大先輩が主宰する月に一回の勉強会。毎回10人ほどの先輩が集まる。この2回のテーマは今話題のMMTを始めとする最近の経済学の動向について。難しいテーマだが、幾つになっても旺盛な知的好奇心を失わない諸先輩から刺激を受けている。
見(観)る楽しみの方は、6月の東寺展(空海と仏像曼荼羅)に続いて、奈良大和四寺のみほとけ展、様々なことを考えさせられた3時間25分の長編映画「ニューヨーク公共図書館」、そしてコラムにも書いた映画「新聞記者」を鑑賞。7月8日には写真家、大石芳野さんの写真展「長崎の痕(きずあと)」でギャラリートークを聞いてきた。それぞれに深い(芸術的)表現に触れるのは、日常の雑然とした感覚から少しでも離れることが出来て、心が洗われる思いがする。
◆書(描)くしんどさ
書く方は難航している。コラムの方は、今の自分にしっくりくるテーマと切り口が見つかるまで時間がかかるようになった。書こうと思うテーマと自分の距離が見えないことが多く、今の世相や政治に対しても一枚膜がかかったように関心が深まらない。年老いたせいだろうか。テレビのワイドショーなどで日々消化される膨大な情報についてもしらけ気味で、「時代に向き合う」を自分に課している筈なのに困ったことである。それでも、何とかかんとか自分の気持ちに沿って自分なりの切り口を見つけては書いている。とにかく75歳までと思いながら。
一方の描く方はさらに難航中だ。やっと鉛筆の下書きを終えて、さてどういう風に色づけしていくかを考えている。再びパウル・クレーのような色使いをイメージしているが、その完成までの時間を思うと気が遠くなる。これも諦めずに何とか日常の合間をぬって、夏の終わり頃には完成させたいと思っている。書くことも、描くこともしんどいけれども、なし終えた時の喜びは得がたいものがある。
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