年明けなので、一時原発問題を離れて「この国の明日」に思いをめぐらしてみたい。考えてみれば、去年の年明けも元気の出ない日本にカツを入れるつもりで4回にわたって「日本の元気」(見えて来た改革の方向性、成長戦略としてのジャパンブランド、政治につける薬1,2)を書いた。
しかし残念ながら、その直後に東日本大震災と原発事故に見舞われ、これまでも書いて来た(巨額の財政赤字、少子高齢化、地方の疲弊、旧態依然の官僚制度、変われない政治、といった)日本の課題は解決されるどころか、原発事故の重荷も加わって、より一層深刻さを増しながら現在に至っている。
◆危機にある日本
加えて、3.11の巨大地震を契機ににわかに現実味を帯びて来た「宮城県沖、茨城県沖地震」や「東京直下型」、「東海・東南海・南海連動型」などの大地震。最近分かって来た長周期地震動や側方流動、巨大津波などが、(今の状態の)超高層ビル、湾岸コンビナート、原発などを直撃したら、日本は壊滅する(「これも難問 巨大地震」)。
また今年は、ヨーロッパ発の経済恐慌が日本経済を直撃する可能性も心配されている。これも底流にあるのは世界的な金融資本主義の行き詰まり現象の一つ。グローバル経済の中で、日本も否応なく変革の影響を受けざるを得ない。
そんなわけで、どうみても2012年の日本は内憂外患。いわゆる「累卵の危うき」(積み上げた卵のように不安定で危険な状態)にある。まるで、幕藩政治の行き詰まりの中で黒船の来航(1853)や安政の大地震(1855)を経験した江戸末期のよう。今の日本を救うには、明治維新のような大きな「国の方向転換」が必要になって来ていると思う。
◆危機に強い国としての「柔構造の日本」
前置きが長くなったが、問題は、このような内からと外からの危機をやり過ごして行くためには、日本と言う国をどの方向へ変えて行くべきなのか、また誰がその舵を切るのか、ということである。そこで今回はまず、日本がめざすべき改革の方向をリストアップし、その中から見えて来る「日本の国のかたち」を探してみた。もちろん各項目そのものは、これまでも書いて来たことなので(「日本の難問」、「東北の元気を日本の元気に」)新しいものではないが、それらをくくる新しいキーワードが何か考えてみた。
結論から先に言うと、それは「地域分散によって柔構造の国を作る」ことになる。つまり、国の機能をできるだけ地域に分散させることによって、災害にも経済危機にも社会構造的にも強い日本を作る。それが、日本が抱えている難問を減らし、当面する様々な逆境や危機をしのいで行くことにつながる。個人的にはその国のかたちを「柔構造の日本」と呼びたいと思っている。素人の思いつきである「柔構造の日本」という言い方が、これからの国作りの方向を言い得ているかどうかは分からないが、とりあえずは以下、そのための各論をリストアップし、また点検することにしたい。
◆日本がめざすべき方向
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災害に強い日本を作る
来るべき巨大地震に備えて、日本は出来る限り「防災と減災」の取り組みを加速させる必要がある。超高層ビルや交通機関などのハード的な地震対策とともに、救助や避難、情報、救急支援などのソフト的な対策を進める。加えて脱原発。震災後も深刻な後遺症を残す原発や湾岸のタンク群などの危険物を止めたり、補強したりしなければならない。
さらに有効な対策は「東京一極集中から地方分散」。東京がやられても地方が代行できるように危険を分散して、国としての生命を維持して行かなければならない。
A 地域主権の拡大で地方を活性化する
思い切った権限を地方に与え、地方を活性化して行く。国と地方の役割分担を大胆に見直し、経済、教育、福祉、などの分野で競争関係を作りだし、地場産業を育成して地域経済を活性化する。日本の輸出依存度(韓国40%台、日本10%台)については色々議論があって、日本は輸出に活路を見出すのか、内需拡大に活路を見出すのか、考えが分かれているが、一定規模の経済成長を確保する上からも内需経済の活性化は欠かせないと思う。
この点、民主党の小沢一郎のいう「内需を拡大するために、地域に思い切って権限を委譲すべきだ」という主張は依然として正しいように思う。
B 国家機能の地域分散によって官僚制度改革を行う
地域主権は中央官庁の大胆な改革とも連動している。カナダやアメリカは州に大幅な権限を与えていて、カナダなどは州によって就学年齢まで違っている。そこまで行かなくとも、何でも中央にお伺いを立てなければ動かない体制は時代遅れになっている。中央官庁の役割を外交、防衛、法務、資源エネルギー、財務などに大胆に見直した方がいい。(「日本の難問C問題山積の官僚制度」)
しかもそうすれば、(私の感じでは)税金の30%程度はカットしても現行の行政サービスは可能。税金の無駄使いの多い独立行政法人なども整理され、国の財政再建の入り口にもなる。消費税増税などはその後にして貰いたい。
C コミュニティーを再構築してセイフティーネットを強化する
東日本大震災で気付かされた東北の人々の粘り強さ、逆境への抵抗力は地域に根付いているコミュニティーの絆の強さだった。こうした地域コミュニティーの再構築こそが、高齢化や災害や経済不況に強い柔構造国家のカギになる。
これまでの政治は地方から人々を引きはがして、そこを高齢者中心の限界集落にして来た。次の政治はその逆をやらなければならない。また、社会全体で子育てを支援するという理念は、絆の強い地域コミュニティーにこそ相応しい。地方都市を活性化して若者を呼び込めば、少子高齢化の歯止めにもなって行く。
D 再生可能エネルギーの地産地消でエネルギー先進国をめざす
災害に強い日本にするためには脱原発。代わりに再生可能エネルギーの基地を土地が余っている地方に作り、地域で作ったエネルギーはできるだけ地域で使うようにする。最先端のエネルギー技術の研究拠点を最適地に設け、その成果を世界に輸出して行く。一方、都市のエネルギー消費もスマートグリッドや太陽光発電などでとことん効率化し、国際公約であるCO2の25%削減をめざして行くことは可能だと思う。
E
地域から世界へ。開かれた日本をめざす
地域主権だからと言って内向きではやって行けない。以前にも書いたように、日本の地域は自然や歴史・文化の豊かなところ。観光、農業、漁業、地場産業、人材交流、国際会議の誘致などなど、あらゆる可能性を捉えて世界につながることを模索すべきである。ローカルとグローバルの交流(グローカル)、ローカルとローカルの交流(インターローカル)がこれからの流れ。地方と言えども、世界に開かれることで活性化を図って行かなければ時代に取り残されてしまう。
F 「持続する日本」を次の世代に残す
先人から受け継いだ日本の貴重な財産である「社会的共通資本」(宇沢弘文氏「TPPは日本の何を壊すのか」)をより良く保ちながら、次の世代に引き継いでいくのは、これまで生きて来た私たち世代の責務だと思う。子どもたちの教育や生活環境を重視しながら、若い世代に「持続する日本」の未来を託す。これは、これからの日本の社会的価値観にもなって行くべきだと思う。同時に、食糧やエネルギーも含めた安全保障政策も、日本の社会的共通資本が持続するためにこそあるべき。TPPについても当然、この観点から吟味する必要があるのだが、前にも書いたように現時点では反対せざるを得ない。
◆野田民主党政権は期待できるのか(次回予告)
以上の7項目がなぜ危機に強い「柔構造の日本」につながるか。また、地方分散で日本の経済は大丈夫なのかなど、もう少し詳しい内容については長くなったので次回に回したい。そこには、経済成長に関する価値観の変化や道州制などといった今日的な問題も絡んでくるので、政策の革命的転換が必要になって来るだろう。
では肝心の、こうした政策を誰が担うのかということも考えなければならない。項目の多くは政権交代時の民主党のマニフェストとも関連するのだが、相変わらず無意味な漂流を続けている民主党政権に期待できるのか。それにしても、2年前の年頭会見で鳩山首相が「100年に1度の大きな改革をやるために政権交代を実現した」と言ったことを今誰が記憶しているだろうか。いつの間にか旧態依然の価値観と政財官の談合政治に逆戻りしようとしている今の野田政権。彼らにこんなことが期待出来るのか、についても次回に書きたい。
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