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このところ、ちょっとした心配事が続いたせいか、10日ほど前から夕方になると脈の乱れが頻発するようになった。結滞という不整脈らしいが、1分間に10回ほども脈が抜ける症状である。なんか気になって心配していると、血圧も上昇し、上が170くらいにも。そこで近くのクリニックで調べてもらったら、午前中だったせいか心電図にも異常はみられず、12月に入ってから(前にもやった24時間心電計)を付けて調べることになった。だが、そうこうしているうちに5日ほどでその症状が消えて、血圧の方も(何日か降圧剤を服用して)収まって来た。
◆「湖東三山」の寺々と紅葉を巡る旅
そこで一時はどうしようかと迷ったが、予定通り旅に出かけることにした。それは夫婦限定参加の「湖東三山」紅葉ツアーという旅で、琵琶湖東岸に点在する紅葉で名高い古い寺々を巡る2泊3日のツアーである。新幹線で米原まで行き、そこからバスに乗る。参加者(19組38人)は皆同じような年ごろだった。西明寺、金剛輪寺、百済寺の「湖東三山」は、いずれも歴史は古いが、今は最澄が開いた比叡山延暦寺につながる天台宗の寺になっている。当初予定より1週間早めたのがよかったのか、どこも目に鮮やかな深紅の紅葉が迎えてくれた。
 
最初に訪ねた「西明寺」は、日本の国宝第一号に指定された本堂、三重塔を擁する。この二つの建物は鎌倉時代のもので釘を一本も使っていないという。山あいの寺なので、本堂にたどり着くには、不揃いの石を並べた数百段の石段を登って行かなければならない。山門を入ってから長い石段が続くが、途中に見事な日本庭園がある。ここには、約千本の紅葉があるというが、それらが真っ赤に色づいていた。次の「金剛輪寺」も石畳の長い坂を上っていく。坂の両側には千体を超える小さな地蔵が並んでいた。ここの本堂も国宝。境内に真っ赤な紅葉がある。
 
◆「戦乱の寺や血染めの冬紅葉」
これを「血染めの紅葉」という。その昔、比叡山が織田信長の焼き討ちにあった時、ここも攻められそうになったが、僧侶たちが山門近くに薪を積み上げて燃やしたために、既に焼き払われたと誤解した兵が引き上げ、辛くも本堂と三重塔が残ったという。バスに戻ってLine仲間に写真を送ったら、友人が「戦乱の寺や血染めの冬紅葉」という句を送って来た。今回はLine仲間に逐次、紅葉の写真を送りながらの旅だったが、その都度やり取りが出来て楽しい旅になった。三山の最後は、「百済(ひゃくさい)寺」。近江で最古(606年建立)と言われる。
 
ここも山門から本堂まで延々と石段が続いたが、カミさんと2人、途中で何度も休みながらやっと本堂にたどり着いた。色とりどりの紅葉が美しい。このツアーでは、湖東三山の他にも様々な所を訪ねた。普段は非公開の(小堀遠州が作庭したという)「教林坊」の庭園では、紅葉ライトアップを鑑賞。ツアー3日目には、比叡山の延暦寺(その日は霧に包まれていた)や、庭園の紅葉が室内の漆塗りのテーブルに美しく映り込む「旧竹林院」(延暦寺の僧侶の隠居所)。そして奇岩の上に建つ国宝の「石山寺」。ここでは紫式部が源氏物語を執筆したそうだ。
 
◆達成感のある紅葉の寺巡りだったかも
これらの寺々の本尊は、延暦寺や西明寺の薬師如来をはじめ、聖観世音菩薩(金剛輪寺)、十一面観世音(百済寺)などだが、秘仏になっていて普段は見られない。多くは、扉の前の「お前立ち」という仏や脇侍という仏像に手を合わせることになる。見事な紅葉を鑑賞することと祈りが一体になった旅ではあった。私も、その都度手を合わせながら、行く前から続いていた「ちょっとした心配事」が無事に行くようにと祈って来た。さて、そうして3日間のツアーを終えて帰宅して、あれだけ駆使した足腰に影響が出ないかと心配したが当初は何もなかった。
何しろ、3日間で2万7千歩もハードな石段を上り下りした計算である。石の形も高さも不揃いなので、上るときはまだしも、下るときが余計にきつい。そのせいか、3日後くらいから膝と足首が痛くなって来た。ツアーは同じホテルに連泊で、荷物を部屋に置いておけたのは良かったが、風呂は部屋内の小さなものしかない。これが温泉ならなどと贅沢なことを言っていたが、まあ、このひざ痛も一時的なものと思うので、今度は近場の温泉に行きたいねと話している。それでも、行く前の不整脈騒ぎを思えば、達成感のある紅葉の寺巡りだったと言える。
◆特別展「運慶 祈りの空間―興福寺北円堂」
このツアーをメインにして、今月は幾つかの出来事があった。某日。60年前の大学入学時にお世話になった茨城県人寮(水戸徳川家が創設した水戸塾)のOBと現役学生との懇親会があった。両国にある、関東大震災と東京大空襲で亡くなった人びとをお祀りした記念館を見学した後、隅田川の屋形船に乗って40人ほどで会食し旧交を温めた。同期入塾は既に半分が亡くなっているが、今回はいつもの4人が参加した。現役学生の元気な(応援団風の)自己紹介に遠い学生時代を思い出した。某日。上野で特別展「運慶 祈りの空間―興福寺北円堂」を鑑賞した。
かつてカナダでの会議で一緒だったメンバーの、年に一回の会食(GoMediaの会)で仲間の一人から頂いたチケットである。この運慶展は期間中30万人が訪れたと言うが、人数を区切りながらの鑑賞でも沢山の人が会場に詰めかけていた。国宝 弥勒如来坐像と両脇に控える国宝 無著(むじゃく) ・世親(せしん)菩薩立像の見事さである。ETV「日曜美術館」で事前に見て行ったが、芸術的な鑑賞と祈りとの両面をどう考えるのか。もう一度仏教の根本精神を確かめておかないと、それを作った仏師たちの思いに近づけないかもと、思ったことだった。
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